アナタは誰と歩きますか?

誰と歩きたいですか?

 

星空の下、君と共に。

 

  side: Wacca

 

シンに壊滅的なダメージを受けた村は無残な有様で。

もう何度目なのか数える気にもならない。壊されては作って、また壊されて、また作って。

シンは人も物も大事なモノ全てを奪っていく。

スピラではありふれた悲しい日常。

18年前、シンはオレ達の両親を奪っていった。

幼かったオレ達兄弟の面倒を主に見てくれたのは隣に住んでいたルーの両親。

オレ達を自分の子と訳隔てなく愛して叱って育ててくれた。

「シンに遣られた村では家族を亡くしたものは生きていけない。」

シンに襲われることに慣れ過ぎていた大人達の暗黙の了解。

いつの間にか作られた「助け合い」のシステムによってオレ達は飢えずに済んだ。

それでもオレ達はまだ幸せだったんだと思う。

幼かったオレ達には両親の記憶が殆どないけど、オレには弟が残され、弟にはオレが居た。

 

その3年後、再びシンが島を襲った時、ルーの両親が死んだ。

ルーは残された家の残骸の影で隠れるようにして独り声を殺して泣いていた。

「もう二度と泣かない。大切な人を守れるように強くなる。きっと。」

ルーが独りで涙を流しているのを知りながらオレは何も言ってやれなかった。

オレ達はただ呆然とするしかなかった。

両親が死んだ時よりも村の誰かが死んだ時よりも死が現実感を伴って襲ってきた。

優しかったルーの両親を思うと寂しくて悲しくてどうしようもなく辛かった。

術もなく守ることも抗うことも叶わなかった己の身が何よりも悔しかった。

ルーが黒魔法使いとして修行を始めたのはすぐ後のことだ。

優しく愛くるしい笑顔の幼馴染は心から笑わなくなり、泣かなくなった。

黒衣に身を包み、大人びた口調で話すことで少女の頃の面影を強引に消そうとする。

感情を開放することが罪であるかのように振舞うその姿に胸が痛んだ。

 

ルーの両親と村の犠牲者達が異界送りの儀式で幻光となった夜。

「ルーを幸せにするのはオレと兄ちゃんの役目なんだ。」

弟は美しい星空を見上げながら震える声できっぱりと言い放った。

オレは満面の星空を映し淡く輝く海面を眺めて無言で頷いた。

あの時の決意に満ちた弟の顔が初めて逞しく見えたのを今でも鮮明に覚えている。

 

 

「兄ちゃん、も少し肩の力を抜けよ。」ってきっと可笑しそうに弟は言うに違いない。

「今日こそは。」その決心が揺らがぬうちに伝えたい事があるんだ。

家族を亡くしたあの日から島に居る間はずっと、ルーは日々欠かさずに祈りを捧げる。丘の上、旅立ちの碑に。

夜道を足早に歩く後ろ姿をコッソリと見守るように追いかけながらオレは少し笑った。

ルーはきっと気付いてる。オレが追いかけてきたことを。

 

年の割りに大人びて見える美しい横顔が少女から女のそれになったのはいつからだろう。

同じ土地で生まれ、育ち、共に旅をした。

幾度もの悲しい過去を乗り越えて、強く美しくなった君をオレは心から誇りに思う。

 

チャップの恋人だったルー。

弟が死んだと聞いた時の哀しい後姿が目に焼きついて離れない。

弟のたった一人の肉親であるオレを励ましながら、ただ淡々と弟を送っていたルー。

きっと心の中でどれ程の涙を流し泣いたのだろうか。誰にも見せる事はなかったけど。

弟の分も幸せになって欲しい。あの時、願った事は決してウソじゃない。

「幸せにするのが何故アンタじゃダメなんだ?」弟と似た眼差しを持った少年はそう言った。

「オレはダミだぁ。」なんてさ。冗談めかして答えたけど、本当はずっと想ってた。

生まれた時から家族の様だったから。弟なら幸せに出来る筈だから。

そうやって、抑えてきたこの気持ちが。

愛する少女と添い遂げる事が叶わなかった少年の言葉を想うにつれ高まってしまうんだ。

愛している。家族の様に。恋人の様に。親友の様に。仲間の様に。

弟の分も幸せになろう。

オレの精一杯で君のために何が出来るかは分からないけど。

残りの一生を懸ける価値がここにあると信じるよ。

 

チャップ、お前の勇気を分けてくれ。

 

「ルー。オレと結婚してくれないか?」

振り絞る様に上ずった情けないオレの声にルーは驚いたように振り向いた。

「家族を作ろう。オレ達で。」

僅かな台詞をとんでもない時間をかけてやっとの事で言い終えたオレ。

ルールーは最後まで辛抱強く待ってから。

「しょうがないわね。」といつものように静かに言って、それからふっと微笑んだ。

 

空には満天の星。

澄んだ海は空と境目が分からないほどに青が溶けあってキラキラと何処までも淡い光を放つ。

波音が心地よい風に乗って頬を撫でていく。

あの日と同じ光景に遠い日の弟の姿を思い出す。

「ルーを幸せに」

島を囲む暖かな空気にあの頃の憂いは一つもない。

この穏やかな小さな村で新しい家族を作ろう。

ルーとオレと・・・チャップと・・・数々の思い出と共に。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−> side Lulu > ブラウザを閉じてお戻りください

マサトが足繁く通っているサイト様の小説投稿板に投稿させて頂いた作品を気に入っていたので許可を得て転載。