ラチャ(ロッシュの現相棒)のターン!! デス。
この先の展開の前振り要素大。他の話にも絡む要素を多少織り込んで見たり…構想もあいまいにキーボードを赴くままにたたいて書き散らしております。
要注意。エチーとかとは無縁でs…
RUSE act.2
珍しく、LSリーダーのノイエから強制的な招集がかかった。どうしても予定が明けられないメンバーはパールだけでも装着する
ようにと、今までルール的にもイベント進行などでも割りと本人の意思を尊重するのがモットーのようなこのお気楽なLSにしては
珍事とも言うべき連絡内容だった。
ただ、他のメンバーと比較してこのLSに参加してから割りと日の浅い自分に関しては、集会参加は自分の意思に任すと…。内容も
知らされず、ただそう言われた。どうやら、LSのメンバーに直接関係のある、プライベート…に近い内容なのかもしれない。
しかし、何故かその「内容」が自分に無関係ではないような事に思えて、召集に応じることにした。ロッシュに至っては参加を強制
されたあたり、鼻についたというか、何か嫌な予感がした。LSとて枠としては曖昧だが組織である事には違いない。どの道メンバー
に関係する事なら、この先の人間関係上情報として知っておいて悪くないだろうと思ったのだ。
其々に予定だなんだとあった連中も、LSチャットだけで済ませられないこんな強引な召集などは本当に今までなかったらしく、
異様な空気を感じ取ったのだろう。ほとんどのメンバーが指定された酒場に顔を出していた。久しぶりに会したメンバーも多い。
しかし、そこは嘗て皆が集まりなれたジュノ下層の詩人の酒場ではなく、アトルガンエリアの予約制貸切の酒場だった。
――これも時代の移り変わりというやつか。
予定時刻より早めに来たつもりだったが既に何人かのメンバーは到着しており、早速麦酒に手を伸ばしている面子もあった。
LSリーダーのノイエに至ってはいつから着ていたのか、一番奥の席で酒どころか何も注文すらしていない様子で、いつになく深刻
な表情を少しうつ向き加減の姿勢のまま椅子から動こうとしない。メンバーがドアから次々と入って来ているのにも気が付いては
いるだろう。けど、やはり自ら挨拶の言葉を発するでもなく、ただ座っていた。いつもなら飛びつく勢いでかまっている、タル双子の
リックとキックに対してすら反応が鈍い。二人から交互に心配そうな視線を受けていながらも、それに応えるだけの余裕すらない
らしい。時々「古株」と言われる幹部連中が入って来ては、そんな隅っこで黙り込んでいるノイエに声をかけていく。ノイエも
それ対してはには言葉少なげに話をしている。あの様子だと「古株」連中には今回の召集の理由・内容は知らされているのだろう。
…そりゃそうか、ノイエの独裁LSではないからな、一応。そう言えば、肝心のロッシュがまだ来ていない。まぁアイツはいつでも
時間ギリギリだしこの位心配する事じゃないけれど。ロッシュは参加を強制されている。
それに、どうも最近ここ二ヶ月ほどだろうかロッシュの様子がおかしい…というか、変わった。以前なら人の話に口を突っ込むわ、
毒舌は吐くわ、人の神経を逆撫でするわ、喧嘩は売るわ(でも買わない)、短気&凶悪で人間関係をネタにウサ晴らしをするような、
そういうお子様且つやさぐれたサイアクな相棒なのだが。とんと喋らないようになった。――いや、正確には話しはするのだが、
今までとは逆にこれまでの悪態ぶりなどの事を誰に何と貶されようとまるで反応がないのだ。それこそ何事にも、自分自身にも
無関心といった態。
最初は悪い風邪でもひいたのかと思っていたのだが、根本的に我が相棒の中で何かが変化したのだろう事に少ししてから気が
付いた。切欠は今持って分からないが、それがいい事なのかどうなのか…正直考えあぐねていた。
暫く前の事になる。昔アイツの相棒だったというエルヴァーンが、ジュノに現れた。ロッシュから直接話を聞いたわけじゃないが、
アイツの様子を見る限り、あからさまに異常な人間関係がこの二人の間にある事位は直ぐに気が付いた。…まぁ、自分からそこへ
勝手に首を突っ込んでしまった訳だが…。多少時期はずれるが、その事とロッシュの様子の変化と、何か関係があるのかも
しれないという思惑は脳裏から消し去ることが出来ずに居たのだった。
――正直、そうであって欲しくない。けどそれ以外に自分では思い当たる節がなかった。
「あいつ、ここの所また変わったな。」
「また…?ロッシュの事?」
話しかけてきたのはエルヴァーンのラウールだった。1年と少し前だったか、フェ・インで出会ったカイルという人物とほぼ公認の
仲の人物だ。そのカイルというのが…またロッシュと相性がいいんだか悪いんだか。歳が近い事もあるのだろうが、まぁ微妙な
関係なのだ。恐らくあの二人は人としての根の部分で似ているのだと思うのだ。―ああ、同じ根っこの部分と言っても「俺様」
的な部分が似ているわけではなく、そこはむしろ正反対である事は補足しておく!(強調!!
「ああ、お前は知らないな。以前にもロッシュには相棒というか、師匠的な存在で行動を共にしていた人が居てな。随分前の
話しになるが、その頃のロッシュがちょうど今みたいに自分からは他人との接点を持たない感じだったんだ。」
「その師匠て、デュラン…とかいう人?」
「なんだ、知っていたのか。」
「いや…名前だけね…」
どんな顔をしていいのか分からず、誤魔化す様に頭を掻いて苦笑いしてしまった。それにしても気に掛かるラウールの「また」という
言葉。当然その言葉は嘗てのロッシュは自分が知る「悪態ロッシュ」とは違っていただろう事を意味している。そしてそこにあの
人物との関わり。
「それでも以前とは違って、今は君がいるから大丈夫だろう。」
「――うちやって、何か出来る訳じゃないですよ…。」
口の中で呟くように言うと、ラウールが聞き取れなかったと言うように視線を投げてきた。
「?」
「あー、何でもない。っていうか、うちはあれやし。アイツのお守り役やないんやけどなぁ。」
思わず、あはは…と乾いた笑いを吐いてしまった。こういう時のアドリブセンスの無さには自分でも情け無くなる。
「俺もお前にお守りされてるとは思ってないんだけどね。」
「ロッシュ。」
ラウールと話をしている間に店に入ってきていたらしい。声に振り返ると、ロッシュが自分の隣の席を空けろと言わんばかりに
ラウールを見下ろしていた。
「アンタも余計な事言うな。」
言われたラウールも軽く肩を竦めてその場を立った。まぁ、この人はロッシュの悪態に反応するような真似はしない。器のでかさが
基本的に違う。…けど、今までのロッシュなら同じセリフでも、もっとネッチりと嫌みたっぷりに言っただろう。
確かにロッシュは他人との関わり方は変わった。その一方で未だに本性というか根っこの「俺様」だけは変わらない。自分でも
アホやなとは思いつつ、そんなロッシュを確認して少し安心している。
否、そうやって自分を納得させているだけなのは分かっている。どう考えても以前のロッシュと今のロッシュの変化は上辺だけ
のものではない。その上、それは誰の目からもあからさまな変化。なのに唯一同等扱いして貰っていると自負していた自分にさえ、
その理由を話さないし詮索させない。「同等」というのもただ自分の自惚れだったんだろうか。そのくせこうやって何も無かったような
顔をして、以前のように当り前のごとく隣に居る。何もないはずがないのに。うちがそれに気が付いてない事も分かっていて。
そんな相棒の変貌振りに戸惑わないわけがない。
「皆、揃ったようだな。」
それまで殆ど口を開いて居なかったノイエが、おもむろに立ち上がった。普段はちょっと軽い感じのオヤジ的なノイエもさすがはLS
リーダーを何年もやっているだけの事はある。大きな声でもなかったが、その声と彼の動きに全員が話を中断させ注目する。
「各々呼び出しのために時間を裂いてもらってすまんな。誤爆とかであまり他所様に知られていい内容でもなかったんでな、
わざわざ皆に集まってもらった次第だ。そんな訳で、悪いが無関係者とPTを組んでる者は席を外すか一時PTを抜けてくれ。時間は
取らせない、この時間中だけはtellなどの他者との会話も禁止する。他、パール装着のみでこの場に居ない者もチャットでの質問や
その他発言は控えて貰う。それだけプライバシーに深く関係する内容だと理解して欲しい。」
そこまで一気に説明をしてノイエが息を吐いた。酒場の空気が一瞬ざわめき重苦しいものに変わる。
「LSメンバーOBの話しだ。今から話す人物は3年前に冒険者を引退しているから、この中には知らない者もいると思う。が、秘め
事は災いの素でもあるし、我らがメンバーを信頼していると理解してもらった上で話を聞いて貰う事にした。うちへ来て2年未満の
者には自由参加とは言っておいたが、今日参加していないメンバーは限られているし、私からフォローを入れておくので、皆からは
他言無用に頼む。」
ここまで言うからにはよっぽどの事なのだろう。どちらにしても良い話しではないようだ。これだけの念の押し様だ、不祥事…という
あたりかな。
「重要な話しだって事はわかった。オフレコってことでいいのか?」
あまり見ない顔だったが、多分古株と言われている人達の一人だろう。ガルカが質問とばかりに手を上げてノイエに問いかける。
おそらくこれも彼なりのメンバーへのフォローなのだろう。
「あいつは古株だが職人だからな、滅多にLSには顔はださねぇの。」
小声でロッシュが耳うちしてくれた。なるほど、それであのエプロン姿なのか。背中の刺繍から察するに彫金職人なのだろう。
ガルカは見た目以上に手先が器用だし。…と、今はそんな事はいいのだ。
「いや、内容を忘れて貰う必要はない。どの道この手の話しは風の噂になりやすい。ただ、他で何かを聞かれても多くは語らないで
欲しいと、それくらいだ。」
「了解した。」
ガルカが頷くのを確認して、ノイエもまた頷いた。そしてノイエは一同に視線を配る。質問が他にないか確認しているのだろう。
が、その後、誰からも声が上がらないのを確認すると、ノイエは徐に本題に入った。
「そのOB、名前はデュランデルだが…」
その名前に背中の産毛が逆立つのを自覚した。なんで今アイツの名前が出てくるんだ。そして更に、その名前の後に告げられた
内容に、虚をつかれて頭が真っ白になった。
「彼が先日亡くなられたそうだ。」
そして一瞬その場の空気がざわめき、何人かの視線がロッシュに向けられる。当然だ、嘗ては「相棒」仲として認識されていたの
だから、何か反応があるとすれば彼だろうと、誰もが思ったのだろう。ところが、当の本人はというと、眉一つ動かさない涼しい顔を
していた。ある程度予想でもしていたかのその様子に、自分も含め皆が驚いた事だろう。
「で、それだけじゃないんでしょう。俺らをわざわざ集めた理由。」
視線が自分に向けられている理由も分かっていて、さも面白くもない話しに付き合わされているといった口調で、ロッシュはノイエに
話を即す。そして自分に視線を寄せる周囲を一瞥して払いのけた。
確かにOBが亡くなったというそれだけなら、親しかった者へメッセージなり送ればすむ事だ。
「そう、ここからが問題の話しだ。彼が亡くなった原因、公にされてはいないが、ある筋からの話では何かしらの事件に巻き
込まれた可能性があるらしい。詰り他殺の疑いがある、と言う事だそうだ。故に今後何かしらの形でサンドリア側から話を聞かれる
等なかしらの形で一部のメンバーは関わりを持つ事になるかも知れないが、そう言う事態になってもあまり大騒ぎしないで欲しい
…と、そういう事だ。」
ノイエの説明を皆が納得する間もない程、即答するような声が隣の席からあがった。
「もう遅いよ、俺んトコにはそのサンドリアのナントカっての来たし。」
その一言にその場の空気がざわついた。明らかにロッシュに再び向けられた不可解な視線、それがどういった意味のもの
なのかは当時を知らない自分には理解出来なかった。
「ろくに話しも聞かずに帰ってったけど。」
多分、それは本当の事だろう。あの計算高そうなエルヴァーンが、自分に不都合となるだろうロッシュとの異様な関係を外に
漏らすとも思えない。それにさっきのラウールの話しとを総合すると、ロッシュの方も当時は人前で奴に対しては特別な反応を
見せて居なかった可能性のほうが高い。つまり、真実の二人の関係を知っている人間は自分も含めてそうは居ないだろう。
いや、居るとすれば彼なら知っている可能性がある。あの一件の後、体調を崩したロッシュを介抱してくれていた人物。それを
サンドリア側が知っているとも思えないが。
しかし、デュランがジュノへ来ていた事はモグハウスの記録を見れば直ぐに判るだろうし、嘗ての相棒と接触があったと思うのは
当然だ。
「でもザンド側はこの話はあまり知られたくないようだよ。奴が死んだのも、もう2ヶ月も前の話しらしいし。本家か他の上級貴族
からかなり圧力がかかってるって処だろうけど、俺には関係ないしね。」
関係ない…か。ロッシュがあんなに怖がっていた相手。奴を殺されて、当の本人が何も感じていないとは思えない。なのに顔色一つ
変えない。嘗ての相棒が亡くなって哀しみの表情の一つも演出しようとすらしないというのは、異様…だろう。
その異様さを周囲がどう見るのだろうか。「ロッシュだから」と片付けられてしまうのか。――ある意味その方が好都合だ。
本人も勘ぐられたくないだろう。
その聴取とやらが数日前の話しだと聞かされ、LSメンバーにこれ以上関わってくる話ではなさそうだ、というのが幹部格連中の結論
となり、「他言無用」を念押しされた後、その会議自体はお開きとなった。
その後、その場が酒場だったこともあって、デュランを悼む会へと自然に全体が移行したのだが、ロッシュは数分も経たない
うちに席を立ち会場を後にした。当然デュランと面識がない事になっている自分が残るのも不自然で、ロッシュと共に店を出た。
なんとなく、自分もメンバー達のその空気に触れていたくなくて、酒場を後にして直ぐ挨拶もそこそこにうちはパールを外した。
時刻は夕暮れ時。街でありながら要塞でもあるこの街は壁が高く二階通路がやたら多く、入り組んで時に遠回りを余儀なくされる。
海に面した開けた視界が、ここ二階通路からは遠く地平線まで見渡せた。太陽こそ建物に阻まれ見えなかったが、その空は西の
雲を紅く染めていた。
海の匂い…故郷の風景を思い出す。けれど、こことは全く違う。海の匂いに土と樹と草の匂いの混じった湿度の高い空気。
姉妹達は元気にしてるだろうか。ジュノを塒にしていた頃は、同じ海の香りがしても、こんなに故郷が懐かしく思う事は
なかったものだったが、何が違うのだろうか。
「カザムが懐かしい?それともジュノ?」
いつの間にか海を見ながら足を止めていた自分にロッシュが話しかけてきた。
「カザムは故郷に比較的近いけど、うちはもっと田舎の出やし。でも故郷はカザムに少し似てるかな。海に面してて小さな
港があって、近くに熱帯雨林があってな。小さい頃よく親に黙って仲間と遊びに行ってさ、ある日スコールにあってそのうち
夕暮れになってもて帰れんなってビービーないたら、大人が探しに来てくれて…こっ酷く怒られたっけな…」
小さい頃はみんな好奇心を持て余していて「冒険者」になる事を一度は夢見る。そして大人になってから知るのだが、親も婆も
皆同じように大人に怒られながら大きくなった。だから広い熱帯雨林でも、子供の居そうな場所くらいは分かっていて、自分達が
すぐに迎えに来てもらえたのもその大人達の経験があっての事。
「そういや、ずいぶん帰ってないんじゃねぇの?」
「ん〜、冒険者を始めてから2度ほど戻ったかな。カザムに比較的近いっても、遠いんよね。足も遠のくってもんよ。そうそう、暫く
前に連絡あってんけど、うちの3人目の妹が冒険者始めたらしいわ。ミスラらしくシーフか狩人目指すんやて張り切っとったわ。」
「ミスラにとって狩人って特別らしいしな。いいんじゃね?」
やはり今までのロッシュと反応がまるで違う。今までならうちを気遣うにしてももっと辛らつなモノ言いだった。それは他の人
からすればデリカシーのない無神経な言葉だったろうが、自分には頼もしい相棒の健在振りを思わせる心地良いものだった。
「なぁ、事情を話してくれへんのはうちに話したくないってだけの事やろうからええけど。ホンマは良うはないけど…。」
海の先の地平線へと向けていた視線をロッシュに向け直す。
「『悪態ロッシュ』はどこへ行ってん。不遜な態度でないアンタなんからしくなくて気持ち悪いで。」
極力軽く言ったつもりだが、表情に険しさが少し滲み出ていただろう事は自覚していた。こんなとき、不器用な自分が憎らしい。
「人に関わるのが面倒になっただけだよ。口数もトラブルも減って、相棒のお前だって少しは楽になっただろ?」
「それが気持ち悪いて言うてるんや。どういう心境の変化やねん。」
「どうもしないよ。今までの俺がお子様過ぎただけでさ。」
「…そんなんちゃうやろ。」
「……俺にとってラチャだけは特別なんだ。だからラチャにだけはウソをつきたくない。隠し事をしてでも「ウソ」だけは言いたくない。
他の連中になら適当に誤魔化すくらい訳ないけど、…ごめん。」
マトモな返答が返ってくる事を期待して居なかっただけに、ロッシュの言葉はある意味衝撃的だった。
「隠し事をしてでも…?それってうちを信用してない言う事やないのか?」
「そうじゃなくて、他人にいえないプライバシーくらい、普通誰にでも一つや二つあんだろ。」
考えるより先に言葉が口からついて出ていた。
「他人!?うちはアンタの相棒やで!それとも何か、うちに言えんような事したんか?!何が「特別」やねん!!こんだけ
アンタの態度の変化に振り回されてるこっちの身にもなれや、心配せんほうがおかしいやろ!」
自分の中に突然湧きあがった激しい悔しさに、握った拳を振るい上げるのを抑えるのが精一杯だった。
「――こんな裏切り方されるとは思わんかったわ。」
「……。」
吐き捨てるような最後の一言は、絶対にロッシュに言ってはいけない言葉だと分かっていた。けど、どうしても止められなかった。
こんな言葉を浴びせるつもりなんてなかった。それならロッシュを殴っていた方がまだマシだ。
叱られた子供のように項垂れるだけのロッシュを残したまま、うちはきびすを返し足早に歩き出していた。不本意に涙が溢れてきて
抑えられない。声を上げて泣きた出したい衝動を、唇をかみ締めながら我慢したどり着くまでのモグハウスは、やたら遠く感じた。
モグハウスに入った途端、堰を切ったように泣いた。頼りない自分が悔しくて、無性に腹が立って、枕を散々殴り、そのへたれた枕
に顔を突っ伏し、抑えられない泣き声を誤魔化しながら。もう我慢する気にもなれず、泣けるだけ泣いた。…これだけ泣いたのは
熱帯雨林で迷子になった時以来かもしれない…。
ロッシュが自分の過去を忌まわしく思い、今まで話さなかった事も知っていたのに。
それに隠し事なら自分だってしているくせに。デュランとの取引…あいつの言うように殆ど跡も残らず腕は再生したが、最初は
どうしてもうっすらと赤みが残り動きも鈍かった。それをサポ程度だった黒魔道士を上げてリトレースを覚えたいからとこじつけて、
モンクの装備では隠せない傷跡をローブ系の装備を着ながらやり過ごした。今では探さないと分からないくらいその傷跡は癒え、
そんな誤魔化しも必要なくなった。しかし自分はこの秘め事で、ロッシュとの接し方や態度が変わったわけじゃない。
でもロッシュは……
泣けば頭の中もスッキリするかと思ったが、やはりロッシュの言動に引っ掛かりを覚えて何かが腑に落ちずにいた。
涙が止まり、しゃくり上げも収まり、こうして呆けてどれくらい時間がたっただろう。
徐に立ち上がり、顔を洗おうと水盆を覗きこむと、冷水で冷やしたもののまだ瞼に晴れが残った自分の顔が写っていた。
「…ふん……情けない面…」
水面に写った自分がまるで他人のように感じた。何の感慨も湧いて来ない。
何も感じない…。
そう、本当に何も感じなかったのだろうか、ロッシュは。
不意にデュランと会った時のロッシュの顔が脳裏を過ぎった。
あのロッシュをあれだけ怯えさせる存在が誰かに「殺され」て、何も感じてない方がおかしくはないのか。もし、何かを感じていて
他人には言えないものであるなら、それは負の感情だったはずだ。それも特別やっかいな。「ざまぁみろ」程度なら、いつもの
ロッシュならばとっくに口にしている。
おかしい…何かピースが填まらないような足りないような。すごく気持ちが悪い…
こうなったら、じっとなんてしれられない。ロッシュに呆れられようが、この先喧嘩になろうが、ロッシュを知る為に自分から動く
しかないじゃないか。
相棒を理解せずに、何が相方か!
思い立ったが吉日。喧嘩上等!
猪突猛進…?それはうちへの褒め言葉や。
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