人の気配がして。

ドアを開けてみたら、そこにカイルが立っていた。

 

カイルは酷く驚いた様子で俺をじっと見上げていた。

 

 

 

カイルがここへ来るのは分かっていた。

疲れてロランの小屋の裏で眠っているカイルにマントを残してきたのは彼の身体を心配しての事もあったが、それだけでは

なかったからだ。

律儀なカイルの事だから、いずれそれを返しに来ると、そう踏んだからに他ならない。

 

来るのは思ったより早かったが。

 

カイルと数日振りに向き合って、俺の心臓はおかしいほど早く脈を打つ。

俺はどうにかしてこの目の前の愛しい鳥を手に入れたくて。

不信感を与えないよう気配を潜める獣のように、俺は感情と速くなろうとする呼吸を押し殺す。

 

「寄って行け。」

 

その言葉にカイルがマントを差し出してきた。

寄っていく意思はないと言ってるのだろう。

 

「これ、返しに来ただけだし。」

 

逃げようとしている鳥。

でも、獣の俺はそれでも動かない。

 

マントを受け取ろうとしない俺に、無理やりそれを押し付けてこられ、そのカイルの腕をマントごと捕まえた。

不意を付かれた鳥は逃げようとそのワナの中で暴れる。

 

「――放してっ、痛い…」

 

無理に腕を引こうとして、カイルの表情が歪む。

まだ肩は完治していないのか…。

それでも俺はその腕を放さない。逃がすまいと更にその手に力を入れる。

そんな獣の反応に、更に暴れて自ら傷を増やす鳥。

必死にもがいて俺から逃げようとする。

 

「や…放してっ!何処にも行かないから!!」

 

そう口にして。

何かを諦めたようにカイルの腕から力が抜ける。

 

………やっと捕まえた。

愛しい鳥を腕の中へ抱き寄せる。

 

 

――もう逃がさない。

お前は俺のものだ。

 

 


 

 

「お前が欲しい。」

 

俺にはそう言うほか何も思いつかなかった。

こう言う時に自分は酷く不器用だという自覚もあった。だからこそ、相手にはっきり分かるように言葉にするのが今の俺に出来る

精一杯だというのもある。

 

 

昔関係があった仲とはいえ、他人をカイルの身代わりにしよとてした時点で、俺も相当壊れていたんだな…。

しかし、結果的にそれは自虐的な行為にしか過ぎず、改めてカイル以外の人間などどうでもいいのだと、自分自身に知らしめた

だけだった。

 

もう、自分を抑えられる自信はない。

抑えるつもりもない…。

 

フェ・インでの一件以来、そしてカイルが自分から俺の元を離れていって、分かった事がある。

今まで俺はカイルに否定された事がなかった。

拒絶的な態度をとられた事は何度かあったが、それでも彼は俺を必要としていくれていた。その事に、いつの間にか俺は

自惚れていたんだと…。

カイルの事を考えて過ごしてきていたつもりだったこの一年間は、実は俺自身がカイルを手元に置きたくて必死だったんだと。

…気がついた。

 

最初からそうだったのかもしれない。何故だか俺はカイルが放って置けなくて。

「俺が何とかしてやらなければ」と、訳もなく使命感のようなものに駆られ、半ば強引に俺から手元に置いた。

その時はただ、同情や哀れみ等のそういう類のものだと思っていたが、今思えばそうではなかったと言える。

その証拠に、その後間もなくだったか…カイルがガーウィンと只ならぬ仲だったのを初めて知った時のショックは相当な

ダメージだった。えも言えぬ「怒り」に似た感情の淵に捕らわれて、それが何故なのか自分でも分からず。自分では「理解できない」

感情を抱えたままの自分自身に腹が立って、それから何日かカイルの視線を避けていた。それが「嫉妬」かもしれないと

思わなかったと言えば嘘になるだろう。

でも、当時はショックを受けていた自分を、その事実を認めたくなくて、「嫉妬」という感情を押し殺してしまった。

多分、それが今になって俺の感情のタガを外す引き金となっている。

 

 

最初にフェ・インでカイルが蘇生した瞬間に見た、あの青い瞳に俺は魅入られていたのかもしれない。

会った事もない彼に、他人事ではない何かを感じて。

どこか遠い昔にその瞳を見たことがあるような錯覚を覚えたのは今でもはっきりと覚えている。

 

 

 

 

 

「お前以外に抱けない。…抱きたくない。」

 

そう言うと、一瞬カイルの身体がぴくんと反応した。

 

「…でも!あんなに俺を避けてたじゃないか!」

「お前に触れてしまったら……熱に浮かされてるお前をさらに壊しそうで、怖かったんだ…」

「…そ…!……そんな事っ………」

 

そう言って振り返ったカイルの顔は明らかに高揚していて、瞳は潤んでいるのに。

そんな目で俺を睨んでも、逆に挑発されてるとしか思えない。

 

気がつけば、俺はカイルの唇を自分の唇で塞いでいた。

一瞬驚いたせいか、動きの止まったカイルだったが…

 

「……ん……」

 

直ぐに鼻から抜けるような甘い息が漏れだす。

そして俺が少し唇を離そうとすると、縋るように追って来る。

カイル自身から俺の舌を誘うように唇を開き、自らも積極的に俺の咥内に侵入してくる。

 

それが彼の答え。

カイルも酷く俺を求めていたのだと。

そのカイルの反応に俺の気持ちが満たされていく。まるで熱く渇いた砂に水を与えられる様に。

 

触れてしまえばこんなにも伝わる事もある。

なのに、時には触れ合いだけでは分かり合えず。また、言葉だけでは伝えきれず…。

こればかりはやってみないと分からないのだと、今更ながら痛感する。

頭でいくら考えて分からない事も、足掻いてみて、そして見付かる答えもあるのだと。

 

 

…何処まで俺の理性があっただろうか?

最初からそんなものはなかったかもしれないが。

 

堪らずカイルの唇に噛み付くようにキスを返す。

お互いの舌が絡み合い、お互いに感じる場所をゆっくりと、だが夢中で探りあい。暫らく咥内を堪能し。

ちく、と音を立てて唇と舌が離れる。

そしてお互いの欲をその濡れた瞳で確認し合い、二人して熱く荒い息を吐く。

何度も何度も、どちらからともなく唇を求め合う。

深く…浅く…何度も。

お互いの交じり合った唾液を飲み、喉が上下に動く。

 

「…ん……んんっ………」

 

舌の裏側を執念に探ると、カイルの瞳が強く閉じられて、喉の奥でくぐもった声が漏れる。

その声に刺激されカイルの弱い場所を夢中で攻め立てる。

 

「…ふぅ…ん……あ……」

 

耐え切れず俺から離れたカイルの唇。赤く濡れたその上唇をゆっくり舌でなぞるとぴくりと身体が反応する。

甘い息を荒く吐きながら、既にカイルの瞳は虚ろになり始めていた。

その潤んだ瞳から眼が離せない…。

 

「うぁっ…?」

 

全身の力が抜けたカイルが俺に身体を預けるように傾いて。

その身体を抱き止めてそのまま抱え上げると、抱き上げられたその途端に我に返ったのか、アイスブルーの瞳が見開かれる。

相変わらず軽いな…。

 

「…わぁっ、降ろしてっ。」

 

その言葉を無視してカイルを覗き込むと、むっとした顔をされる。

 

「女じゃないんだから、降ろしてってば!自分で歩けるっ!」

 

そして俺の胸をその拳で殴られる。本気でもないから痛くもないが。

膝が笑って立っていられないくせに生意気を言うもんだと、少し可笑しくなる。

 

「ワラウナッ!!」

 

朱がさしていた顔がさらに赤くなる。

 

――本気で怒ってるな、これは。

 

今まであまり見る事のなかったカイルの少し気の強い一面。

それもまた新鮮に感じられる。愛しさが込み上げて止まらない…。

ほんの少しの間離れて過ごしていただけなのに、カイルは目に見えて変わった。

――フェ・インの一件がカイルの気持ちにケリをつけさせたのかも知れないが。

あの一件の事も。カイルの元恋人で、俺の親友だったあいつの事も。今はもうどうでもいい。

それでもカイルは今俺の腕の中に居るのだから。

 

その癖のある前髪の掛かった額に軽く唇を寄せと、照れくさそうに目を瞑る。

そしてベットの上まで運んでからその身体を解放する。

 

「ほら、降ろしたぞ。」

「なっ、…ん…」

 

何か文句でも言おうとしたその口を再び唇で塞ぐ。

 

「今更つべこべ言うな、うるさいぞ。」

「……そういう事をその笑顔で言う?」

「相手がお前だからな。」

 

その言葉に何故かカイルが驚いたような表情をする。

そして耳まで真っ赤になりながら、口元を押さえて、

 

「……………ラウール…ってさ。時々さらっと恥ずかしい事言うよね。」

「そうなのか?」

 

まぁ、聞き返されても困るとは思うが。

よっぽど恥ずかしかったのかカイルの視線が宙を彷徨っている。

カイルにそう言われてみて、こっちまでくすぐったいような気分になり、どこか落ち着かない。

 

「なんだか、ラウールが女性にもてる理由が分かるような気がした。」

「……誰がそんな事を言ったんだ?」

「うーん…噂、かな。」

 

上手く名前は出さずにすり抜けたようだが、まぁそんな類の話を嬉しそうにする奴は知れている。

それにしても、なんだかかなり誤解があるような気がしてしょうがない。

そのうちその誤解も解いていかないとな…。

 

「相手が、俺だから…?」

 

カイルの手が俺のほうへ伸ばされてきて、さっきの言葉を改めて聞き返され。その細い指が俺の顎のラインを辿る。

その手を捕まえて、自分の頬に宛がう。

 

「そう、お前だから。」

 

そう言うと嬉しそうに、そして少し困ったように微笑むカイル。

そしてその口の中で聞き慣れたスペルを唱えられて、俺の目の前を淡い光がふわりと横切りなんとなく頬が軽くなる。

驚いてカイルを見下ろしていると、そんな俺の様子にくすくすと笑われる。

 

「結構しっかり引っ叩かれたんだね。ここ、熱いよ。」

 

そう言えばそうだった。元アタッカーのあいつに殴られてこの程度ですんだんだけ、実はマシなんだが。

俺には苦笑いを返すしかない。

 

「……ラウール…」

 

俺の頬にあった手がゆっくりと首へ伸ばされて、するりと首筋を撫でていく。

名前を呼ばれ、物欲しそうな目でキスをねだられる。

そんなカイルの誘いに、俺の中で何かが弾け飛んだ。

 

 

食らいつくように、貪るように。

カイルの唇を割って舌を滑り込ませ、舌を咥内を味わい尽くす。

激し過ぎるのか少し戸惑いがちに逃げようとした舌を追って、さらに追い立てる。

 

「…んっ……んん……ぅ……っ」

 

赤と黒で彩られたAFの留金を外していく。

以前より少し日焼けしてきているとはいえ、服を剥ぎはだけた肌の色は白い。

俺たちエルバーンより小柄な種族でありながら、背筋をぴんとのばして立つ姿は勇ましく感じさせられる事もあるヒューム。

が、ともすれば少し頼りなげに見えるこの美しく白い肌。この種族の白い肌に憧れ嫉妬するエルバーンも少なくないだろう。

 

AFを肩から外そうとしたあたりで、カイルの表情に快楽とは違う表情がかすかに混じる。

 

「…痛いか?」

 

唇を離すと、荒い息を吐きながらカイルは首を横に振った。

 

「…平…気……」

「…まだ少し腫れてるな。」

 

左肩に手を当てると少し熱い。見た目にはたいして腫れてはいないが、確かに熱を持っている。

先刻、俺が無理に腕を掴んだもの響いているかもしれない。

 

「利き腕じゃない…から…平気。」

 

さっきカイルがしたように、俺もケアルを唱える。肩に唇を当て、ケアルスペルを口にする。

時間が経っている上に何度もケアルをかけた怪我だ。これ以上スペルではどうなるものでもないのは分かっているが…。

動く唇がくすぐったいのかカイルが微かに身を捩る。

そのままカイルの身体にキスを落としながら、肩に障らないようにAFを脱がしていく。

 

首筋を刺激するときつく目を閉じて、声は出さないが身体がぴくぴくと反応して白い首が仰け反り露になる。

身体のラインを指と掌でなぞり、そして胸の突起に辿りつく。

その突起は既に堅くなって、刺激を与えられるのを待ているかのようにも見える。

 

「…んっ……くぅっ…ん……」

 

指の腹でゆるく撫で、そして爪に軽く引っ掛けると、背中が仰け反り胸を突き出される格好になる。

そんなカイルの素直な身体の反応に、元からあまり持ち合わせていなかった俺の余裕が急速に削られていく。

 

「んぁっ!」

 

度重なる口付けと期待感からか、すっかり大きさを増して空を仰ぐカイルの中心を握りこむと、一瞬息を吸い込むような音と声が

漏れる。そのまま手を上下に動かしてやると、身体を硬直させたまま全身を震えさせ、俺の手から与えられる直接的な刺激に耐えて

いる。両手ともシーツを握り締め、指先が白い。

左肩に無駄に力が入らないように、開いた手で軽くカイルのその腕を固定すると、思い出したように左肩から力が抜ける。

だが、何処までその肩を労わってやれるか。俺自身、自信がない。

 

呼吸を乱したカイルの唇を指でなぞると、自分から俺の指をその口に咥えこむ。

指先の敏感な感覚に、柔らかかく濡れたカイルの咥内と舌の感触。まずい…俺のほうが煽られる。

 

「…ん……ふぅ…」

 

指を増やし、その暖かくて柔らかい舌を弄ぶように撫でながら指にたっぷりと唾液を絡ませて、その口から指を引き出した。

名残惜しそうに指を追って来る舌と指の間に濡れた光が糸をひく。

その指を後ろへ宛がうと、ピクンとカイルの身体が小さく跳ねる。

 

「…あ……ぁ…あぅっ…」

 

ゆるく入り口を濡らすようになぞっるとヒクヒクとそこが動き、少し力を入れただけで、カイルは簡単に俺の指を根元まで

飲み込んだ。

 

「…ん……くぅっ……んん…あっ…」

 

直ぐに熱くとろけ始めたそこに指を増やして更に広げていく。

ゆっくり指を抜き差ししながら、壁を解す。その指の動きに、すぐにも淫らな水音が纏わりつき始める。

 

「…やぁっ……ぅん……もぅ……」

 

そんな刺激さえ、もうもどかしいのか、カイルが身を捩って俺にすがり付いてくる。

 

「…もう?なんだ?」

 

カイルの顔を覗き込む。

その瞳はすっかり濡れて涙目で。艶やかで赤みの差した肌の色も、濡れた唇も、乱れた髪も、物欲しげに顰められた眉も。全てが俺を

快楽の渦に誘い込もうとしているように思えてならない。

 

「も…ぅ…焦らさない…で……」

「何言ってる。…まだ大丈夫だろう?」

 

俺のチャチなプライドがカイルに主導権を握らせまいとする。

しかし、意地悪く少し笑ってみせると、泣きそうな目で睨み返され…

 

「…うっ。」

「……ラウール…だって、余裕…ないじゃ…ない。」

 

未だ脱いでいなかった下着の上から俺自身を握り返され、不意なカイルの行動に不覚にも声が漏れる。

一度触られてしまえば隠しようがない。男ならなお更分かってしまうほど、俺のものは堅くなっていた。

 

「……くぅっ…あぁ……っ」

 

指をカイルの中から乱暴に引き抜き、代りに俺自身をそこに宛がう。

 

「…優しくは、無理だぞ。」

 

そう言った俺に、息を整えながらカイルが俺の首にゆっくりと腕を回してきて。

そして、耳元で俺の口調を真似た。

 

「『今更…つべこべ言う、な……うるさいぞ。』」

 

辛うじて、自分の耳にカイルの息が掛かった辺りまでは意思がはっきりしていた…と、思う。

気がつけば俺は自分の思うままにカイルの身体を揺すり上げていた。

 

カイルの喉からほとばしる悲鳴にも近い喘ぎ声。

細い腰を押さえつけ、その引き締まった身体に自分の欲望を叩き付け続ける。

 

「あぁっ…あっ…んあぁっ…!」

 

途切れる事のない声を聞きながら、快楽の波に理性など簡単に押し流されてしまう。

苦しげに閉じられた瞳…それでも獣に成り下がった俺は目の前の白い身体を貪る事を止められなかった。

 

お互いが果て、それでも身体の中の獣は静まらず……

それから俺たちは本能のままにお互いの身体を求め合い、カイルが疲れ果てて眠りに落ちるまでそれは続いた。

 

 

【to depth】 (無題) fin.

 

電柱‖・ω・`)<あとがきだおー。

 

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