Float II
被害が出た。
モーグリに大事に育てさせていたいた鉢植えが収穫前に荒らされた。
…らしい。
現場は本国に帰っていたモーグリしか見ていないから、まだどうとも言えないんだけど。
これで2度目だった。
天昌堂のある知り合いから貰った謎の種。何が生えてくるか、どんな種類のものの種なのかまたく分からないので、売り物に
ならなかったらしい。
その知り合いは俺が鉢植えマニアであることを知っている数少ない知り合いだった。その彼がカザムからジュノへ戻った僕を
見つけると厄介モノでも押し付けるように、「やるわｗ」とだけ言い残して税関の向こうへ消えていったんだった。
それが２ヶ月前。
見た目は挿し木に近いかも。でも、見たこともないものだった。
――で、小分けにして二度ほどその種を栽培してみたものの、実はまだ一度も収穫できていない。
だから、その種から何が出来るのか、未だに僕も知らないのだ。
見た目によらず案外栽培サイクルの早いその植物が二度目のクリ投入を迎えたのが一週間前。
そして二度目の被害の悲鳴が聞こえてきたのは今朝。もう収穫も間近って時の被害だった。
３鉢植えた内、被害にあったのは２鉢。辛うじて残る１鉢は無事だった。そいつは栽培の様子を見にモグハウスへ戻った
モーグリの気配で慌てて逃げていったらしい。
訳のわからないその種から収穫できるものが目当てなのか？
もしかしたら凄い高価なものが出来るのかも…とも思ったけれど、だとしたら例の天唱堂の商売の鬼が僕にこんなものをくれる
はずもないか。
それにしても、栽培が外部者に荒らされるなんて事は聞いたことがなかったし、もしかしたら僕に宛てつけた悪戯かもしれない。
…身に覚えは…ない…と、思いたい。
で、僕は自分で収穫する為に、バステゥークへと向かっていると言うわけだ。
モグハウスにたどり着くと、まだ最後の鉢植えは無事だった。
まだ収穫期には入っていないが、この成長振りだと明日にでも収穫できそうだ。
部屋は荒らされたときのまま。僕が現場を見るまで片付けないようにモーグリに言ってあったからね。
「酷い有様クポ…」
申し訳なさそうに項垂れるモーグリ。留守を預かっていて、コレじゃ…そう言いたくもなるのは分かるけど。
「戸締りだってしてたんだし、モーグリのせいじゃないでしょう？荒らした奴が悪いんだからさ。」
謝られると可哀想になってくるじゃないか。
ふわふわと浮かぶモーグリの頭をぽんぽんと叩いてやる。
犯人を捕まえるのが手っ取り早いけど…手がかりと言えば、根元をほじくり返されて枯れた鉢植えが二つ。モグハウスの床に
散乱した土。戸締りしていたはずなのに開けられていたドア。
――それだけ。
ドアが開いてるあたり事は犯人はシーフの可能性が高いけど…、そうじゃなくても器用な人なら開けれそうな気がするんだよね、
このドア…。カギなんてお粗末なものだし。
「逃げて行った奴ってどんな奴か覚えてる？」
「う〜ん…一瞬だったから顔は見てなかったクポぉ…」
「背格好とかは？種族とか性別も分からない？」
「そうクポね〜、大きさはご主人とあまり変わらなかったクポ。少し背は低かったかも。小柄な男性って感じだったクポよ。」
「ヒュムか。ここじゃ多いもんね。あり得るな…」
「あ、でも逃げる時に『うにゃ！』って言ったクポ！」
――はぃ？？
「うにゃっ」て言うヒュームってのはそうそう居ないだろう。
あと、可能性は…ミスラ？；
確かにミスラなら器用な奴は多そうだし…けど、小柄なヒュム男くらいの………………
あ…。思い当たる人物がある！
けど、そいつがバスに居る可能性って凄く低い。
それに、なんでそいつが僕の鉢植えを狙うわけ？理由がない。
「…違うか。」
「？」
僕の独り言にモーグリが小首を傾げる。
悪戯が目当てなら、もう鉢植えが荒らされる事もないかもしれないが、この植物が目当てならこの最後の鉢植えを狙いに
またそいつが現れないとも限らない。
とにかく今日は警戒した方が良さそうだ。
「モーグリ、今日は誰か知り合いのところに泊まらせて貰っておいで。今晩はまたそいつが来る可能性があるから。」
「…ご主人は？」
「僕のことは心配しなくてもいいから。ね。」
ちょっと不安は不安だけど…。
僕だってたいしてレベルが高いほうじゃないし。ちんたら育てたジョブの中でも戦死が辛うじてAFが着られるようになった程度
…AF自体はまだ揃えられて無いんだけどね。orz
もしかしなくてもその「荒らし」は僕より強い人の可能性のほうが高い。
シーフで絶対回避もいいけど、サポ用にしか上げてないしキケン度はどっちかというと高い。
気休めかもしれないけどサポシにしておいて、「とんずら」だけは使えるようにしておいた。今日はメイン武器の両手斧でも
抱いて寝ることにしよう。
………がさがさがさ…
…さくっ、さくっ、さくっ…
ぱっぱっぱ……
暗がりの中に小さく響く異様な音に目が覚めた。
その音の中には聞いた事もないような「ゴロゴロ…」という小さく空気を振動させるような音も混じっていた。
…もしかして、もしかしなくても…キタ？
僕は目いっぱい緊張していたと思う。額と掌に妙な汗をかいている自覚があったし。
物音を立てないようにそっと身体を起こす。
そして、枕もとに置いていた斧を掴んで…
「誰！？」
一気にベットから飛び起きて、その人物に斧を向ける。
そこに居たのはモーグリが言った通り、少し小柄なヒューム。だと思う。チュニックのフードを被っていて、顔は見えない。
その人物は鉢植えの前にしゃがみ込み、手は土まみれで、何か枝のようなものを口に咥えていた。
あー、最後の鉢植えもやられちゃったのね…。やっぱり目的はその生えた植物の方だったのか。
僕に対しての悪意じゃないと知って、内心ちょっとほっとする。
「……」
斧を構えた僕に気がついて、その人物が立ち上がる。
あまりにも無防備に。殺気とか敵意とか気負いとかそういうものを全く感じさせない。
…舐められてる？それとも俺が怖がってるのが筒抜け？？
それどころか、何か良い物でも見付けた様な嬉々とした気配さえ感じさせる。錯覚なんだろうか。
そして僕の方をじっと見ると、僕が武器を構えてる事なんてお構いなしに近寄ってきた。
「え…え？…ええ？？」
泥棒に変に近寄られて、僕はそいつを追い払うとかそういった事も忘れて後ずさる。
さらにそいつは僕に近寄ってきて。更に顔が近づき、鼻先が…
くんくん…
―あ、匂い嗅がれた。
鼻を鳴らしながら、僕の首あたりの匂いを嗅ぎ出した。
何か反撃されるとか、そういう危険性はないようだけど。これってどうなの？
焦った僕は反射的に後ろへ後ずさりして、…馬鹿みたいに自分のベッドに後ろから足を掬われて尻餅をつく格好になってしまった。
辛うじて倒れこむ事を防ぐため、片手はベッドにつっかえて、両手斧を片手で支えるハメになる。これじゃ上手く武器は扱えない上に、
バランスが悪い事この上ない。
そんなどんくさい自分も恥ずかしかったけど、それより…人に匂いなんて嗅がれた事なんてないから、何だかもの凄く恥ずかしくて
赤面してしまう。
というか、普通は人の匂いなんて嗅がないでしょう！？
と、思った次の瞬間、不安定な体勢を保つために逃げ場を失った僕の首筋に、つっ…と生暖かい湿ったもので撫でられた。
「うぁあっ！？」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった自分が情けない。おまけに驚いた勢いで、バランスを崩しベッドに押し倒されるような格好に
なってしまった。
でも、でも、これって…まさか舐められた！？
驚いてそいつを押しのけようとしたところで、一瞬早くそいつに羽交い絞めされるように抱きつかれて、腕の自由まで奪われる。
その僕の胸の上で、さっき聞いたゴロゴロともグルグルともつかない、低い振動音がしている。
…もしかして僕、故意に押し倒されてますか？
というか、斧！
斧持ってるんだから、危ないでしょう！！
そこまでされて、自分が持っていた凶器の存在を思い出す。
「ちょ…危ないって！武器持ってんだから！！」
「………突っ込みどころはそこでいいわけ〜？」
酒にでも酔っている様な、語尾にキレのない口調。ただの酔っ払い？
でも…あれれ？
この少年のような響きの声は…？
……ま…さ…か…
モーグリと話していて思い当たったあの人物！？
そいつのチュニックのフードを後ろへ払いのけると、そこには知った顔があった。
とがった耳にふさふさの毛。頬に入った赤い刺青。そして、金色の瞳…。
「…あ。」
「おひさｗ」
「カギ尻尾！」
金色の瞳の僕の憧れだった猫の…息子！！
そして…そして………前に会った時、僕は彼を……っ！
思い出して顔に血液が急上昇して来たのを自覚してしまった。
「カギ尻尾とはご挨拶だね〜。まぁ、それが俺の特徴だけどさ。」
「ちょっちょっ！どいてって！！僕武器もったまんまだし、危ないって！」
僕がじたばたと暴れているのも、放せと喚いているのも全くお構いなしの様子で彼は…
また僕の匂いをくんくんと嗅ぐと、うとりとした様子で…そのザラついた舌で首筋をまた舐めてきたっ。
「いい匂いだねぇ〜…」
いい匂いも土臭いだけだろうに！
再び彼はグルグルと低く喉を鳴らしながら、今度は僕をはがい絞めしたままスリスリと頭や顔を摺り寄せてくる始末。
ちょっっ！冗談抜きでくすぐったいから、勘弁してください！！
…それにしても、どうも様子がおかしい。特に口調がちょっと呂律のまわらないような、以前とはちょっと違う。
やっぱりお酒でも飲んでる？いやでも、確かそこそこ酒には強かったようだし、飲みすぎらしい匂いもしないし？
ふと彼の瞳と目が合う。その父親によく似た金色の瞳は妙に艶のある潤みの光を反射していて、うっとりと僕を覗きこんでいた。
しかもその瞳は焦点がぼやけている。
「やっぱりここの部屋、アンタの部屋だったんだ…。懐かしい匂いがしたからさ〜…」
声までやけに艶っぽい。
「また来るって言ってくれてたのに、アレから一度も来てくれなかったろぉ〜」
「いや、何度か行ったんだよ！…でもその度にいつもキミは居なくてさ。ミスラントマトとか、テントの前に置いてたの覚えて無い？」
「あ〜…あれアンタだったのかぁ。うれし〜来てくれてたんだ。…けど、そのトマトは食べれなかったんだぁ。多分カニかなんかに
荒らされちゃっててさ…残念……」
恍惚とした表情に残念そうに眉が少しひそめられる。
「ペットに便利な奴だったから放置してたんだけど、あいつみっけたら次はゆでガニにケテー。」
「おいおいっ、トマトならまたもってってやるから…」
「でも。その時のトマトはもうないじゃ〜ん？」
いかん、こいつは思考回路もぼやけ気味なんじゃないだろうか。どう考えても酔っ払ってる、と思ったその瞬間。あるミスラの話を
思い出した。今は殆どお目にかかれなくなった薬草の中に、ミスラ族だけが酔いしれる媚薬的なものがあったと。
確か…マタタビとかいって根が珍重されるとかなんとか。
―― 根？…それだ！根だ！！
だから彼はこの鉢植えをほじくり返して土まみれなわけか！
納得がいってあるスッキリ感と入れ違いに、ある焦りが腹の奥からせり上がってきて、手や額に妙な汗をかき始めていた。
………これは、この状況は…いくら僕が鈍いとはいえ、嫌が上にも身の危険を感じざるを得ないんじゃないの、自分？……
僕は知らなかったとは言えミスラ族の大好物、しかも媚薬を栽培してたのだ！！しかも目の前に居るのは世間一般的な女性の姿をした
ミスラではなく…………♂！！！
確かに、一度は彼と肉体関係をも…もっ…もったけど。その時は彼に誘われた状況だった。でも今は！確実に襲われてませんか僕！？
「ちょっと！さっきから待てって言ってるだろう！！放せよっ危ないって！」
「だったらとっととその物騒なもの、手放せば？」
「ヘタに落として足にでもあたってみろ！骨折じゃすまないっ…」
「ああ、うるさいなぁ〜…」
小さくそういうと彼は勢いよく僕の口を塞いだ。彼の口で…。それは殆ど噛み付くといった勢いだった。
少し土の味と、それとは違う苦味のある独特な味というか匂いがした。
突然の行為に僕が面食らっている隙に彼の舌がスルリと口内へ滑り込んできて、僕の舌やら口の中の粘膜をかき回し…
お父さん、お母さん、ごめんなさい。僕は彼に弱いようです。 orz
あっという間に理性をもっていかれてしまった。
彼から与えられる快楽に、斧を握っていた手の握力がゆるみ。斧が床に落ちる金属的な派手な音がして、一瞬我に返る。
目を見開いた僕を、彼の熱を持った金色の瞳が覗きこんできて、くすりと笑う。「ほら、平気でしょ」と言わんばかりだ。
「エイジナ・ノーリス。」
「え？」
やっぱり小さな声で耳元でささやかれる。その吐息が耳に触れてぞくりと快感が走る。
「俺の名前。エナでいい。」
そういえば、初めてジャグナーで会ったときはお互いに名乗らないまま分かれたんだったっけ…
「してる時に、やっぱお互いの名前は呼びたいじゃん？」
言われて、カッと顔中熱くなる。
「こ…恋人同士じゃあるまいし、恥ずかしいだけだろッ！」
「釣れないなぁ〜…俺は名乗ったのに、教えてくれないの？アンタの名前。」
た…確かに理由はどうあれ、名乗られたなら名乗り返すのは礼儀だよな……
「……サジ。」
「サジ。」
名前を呼ばれて、恥ずかしくてそっぽを向く。♂に押し倒されてて、名前を呼ばれて…恥ずかしくならない方がおかしい。
「脱いでよ。サジの男らしい身体つき、見たいな…」
そう言うと、今まで僕の身体を派外締めしてた腕が解かれて、エナは上半身を起こし僕から離れた。
「俺も脱ぐし。ほら…」
言うと彼は自分の衣類を脱ぎ捨て始めた。
そう言えば、前にも言ってたっけ。『男らしい身体に興味がある』って。
『カギ』と呼ばれるカギ尻尾の持ち主の彼は、お世辞にも男性的とはいえない特殊な存在だった。それは遺伝的欠陥なのだという。
普通、ミスラはつるりした鞭の様なしなやかで長い尻尾と猫のような耳が特徴だ。けれど、彼は生まれつき尻尾は半分くらいの長さで
しかもその先が痛々しく折れ曲がっている。それが所謂『カギ』というやつで、雄のミスラにとって、それは遺伝的な大きな欠陥なの
だという。生殖能力はあるのだが、その『カギ』との交配で出来た子は死産率が高く、また育っても短命。詰り、劣化遺伝子。
その昔、種族として人口が多くなかった時代には「雄」としての機能を排除されたり、飢饉などでは処分されたりと…凄まじい扱いを
受けていた背景を持つ。…そして、その習慣が今も残っていて、かつて彼の父親は、一族のミスラから内々に追われている身だった。
一族から劣化遺伝子を出してしまったという事を恥だとでも思っているのかもしれない。隔離して管理でもしておきたいのだろう。
そして何故エナが冒険者よろしくその里で飼い殺しにあってないかというと、その里で隔離されていたはずのエナの父は自由を求めて
里を抜けだしジャグナーに潜み、その心情に同調してくれたミスラと一人の子供をもうけ、隠し育てた。その時の子供がエナというわけだ。
多分、その当時のエナ父と僕は会った事があるらしい。時々エナそっくりの人が出てくる夢をみる。夢の中のそのヒトは子供の僕にでも
分かる位、とても綺麗なヒトで、憧れ…というか、儚げなそのヒトをとても「大事にしたい」と思ったあたりで、いつも目が醒めるのだ。
で、話しは戻るわけだけど。『カギ』には繁殖的意味だけではない、外見に他の雄と一線を隔す点がいくつかある。それが尻尾の形状で
あり、また特筆すべきは大人になっても青少年的な、中性的な肢体を持ち、そのくせ♂ミスラ独特の『色気』だけはたっぷりで。実際には
彼以外の♂ミスラを見た事がないのでその『色気』とやらも、彼自信の特性なのか♂ミスラだからなのかは僕には分からないけれど。
厄介な事にとにかく人をひきつける魅力万歳なのである。かくいう僕も初対面の時、「青少年的」なのに「艶やか」だと思った。
美人な女性もいくらか会った事はあるけれど、彼ほどの「艶」は感じた事はない。
…でも、これって世間一般の下ネタ系では「ショタコン」とかっていうジャンルに入るんじゃ無いのか！？いやいや、あれはかなり
トシの離れた年下を指す用語だったような気もするし、僕と彼は殆ど年的には同じだし！
訳のわからないいいわけと言うかなんというか、自分の状況を確認しようと、意味不明な思考がぐるぐると頭を回って収拾がつかない。
パニックになってるんだ…。そうだ、パニック！落ち着け自分っ！
けど、そんな呪文は役には立たなかった…
段々に露わにされていく、彼の肌。その肌は多少日に焼けてはいても、僕なんかよりはずっと白くて…色だけじゃない。とにかく、目にすると
目が放せない。
…触れたい。
前に関係を持ったときの感覚が甦ってきて、どくんと心臓が跳ね上がる。
彼自身に視線が釘付けになっている事にエナが気が付いたらしく、少し短くて先の折れ曲がった尻尾でぺしっと軽く叩かれた。
自分も脱げ！催促してきたらしい。
「ああ…ごめん。」
軽装というか殆ど部屋着だった僕は、カスタムチュニックの金具を外して前を解き、エナの方を極力見ないように、
一心に上半身に未に付けていたものを脱いでいった。
「これでいいだろ。勘弁してくれよ。」
上だけ脱ぎきった僕は彼にそういったが、納得してもらえるとは思ってはいなかった。
「それじゃぁ デきないよ？」
「あのなぁっ！」
「…俺に飽きた？」
何処となく哀しげな表情を向けられる…。やばいって、そんな顔するなよ。
しかも飽きたも何も一度しか関係を持ったことはないし。…それに飽きるどころか……
けれどその言葉は彼の本心からの言葉じゃないことはすぐに分かった。
こいつ独特の、眼を細めてほんの少し口角を上げる表情…、何かを面白がったり観察してる時の眼だ。
一瞬言葉に詰まって困惑していた僕の反応を見て楽しんでいたのだ。
自分のウソに気が付いてはっとした僕の顔を確認してから、エナは更に眼を細めた。
「前はサジに気持ちよくしてもらったから、今度は俺がしてあげるよ。」
「ちょっ！待てって！ぼくは…っ」
抱かれる方の趣味はない！！って言おうとしたのだが…
ズボンの上から雄の中心をさすり上げられて、その急に与えられた快楽的感覚に喉がぎゅっと締め付けられ、それ以上言葉が
続かなかった。
「ごめんね。でも、今日は俺の方がすっご〜〜く、シタイんだよねぇ〜…」
いつの間に手をぬぐったのか、さっきまで土まみれだった彼の手はすっかりきれいになっていた。
そして細くてしなやかな指が、エレガントとでもいえる仕草で床に落ちていた植物の根を抓み上げて、口まで運び一かじりすると、うっとりと
目を細めた。ついさきまで、少しマシになったように感じていた金色の瞳の潤みが急に増したのを見て、再び心臓が跳ね上がる。
下腹の辺りが熱くなって、その瞳で見つめられるだけで身動きが取れなくなる。
エナは遠慮もなく僕の下着を少し下げると、性急に僕のモノを取り出した。
彼の魅力に反応し始めていた僕自身をうっとりと金色の瞳が見下ろして…ザラリ。
下から上へ裏側を舐めあげられると、そのまま口内に含まれた。
「…っ！」
ミスラ独特の舌の感触に背筋に快感が走りぬける。
「ん……うんっ……」
エナに咥えられている…それだけで僕の方はおかしくなりそうだった。そそられるなんてもんじゃない。
「今日は俺が気持ちよくさせて上げるから、サジはじっとしてて。」
「そんな事言って、人の身体で遊びたいだけじゃないの？」
「…うん。サジの反応たっぷり見たいし〜…それに。」
彼の煽る仕草と声と、与えられる快感に、辛うじて普通に話せたと思ったのに。あっさりと肯定されて、ちょっとだけ悔しくなる。
「オイルなんて使わなくても気持ちよくなれるんだよ…教えて上げる。安心して、俺上手いから〜…」
「いやいやいやいやっ！マテっってっ！！………………んっ…ぁ」
僕の反論など聞く気もないらしく、彼は再び僕自身に顔を埋めた。
僕が抱かれる！？この華奢な身体の彼に！？？アリエナイでしょうっ！
などと否定が頭の中を駆け抜けて行ったが、それは瞬く間に、彼の魅力にとっくに虜になっていた僕の、快楽への期待に飲み込まれて
いた。僕にとってはエナ自身、存在そのものがマタタビのようだった。実際にはミスラがマタタビにどんな風に酔いを感じているのかは
ヒュームの僕には想像も出来ないけれど。少なくとも、フェロモン全開の彼を相手に僕は抗えない。
ベッドの脇に座っている俺自身を咥えながら、もしくは舐め、手で煽りながら、エナは器用に俺のズボンと下着を脱がしていく。
俺も何気に少し腰を浮かせたりと…その作業にいつの間にか協力していた。太ももに当たるエナの猫毛な髪がくすぐったかったが
それすらも快感を増徴され追い詰められていく。時々ちゅぷっとか水音をわざと立てられると、恥ずかしくておかしくなりそうだった。
「…もう…やばいって…いいから放してっ」
「らめ…」
「…ぅ…くぅ…」
限界が近くて降参の声を上げると、エナは俺のモノを咥えたままき拒否の二言。それが刺激になって、本当にイキそうになったところを、
きゅっと根元を握られてその痛みに食いしばった歯の奥から声が漏れてしまう。
…くーっ、それじゃイケないじゃないかっ……拷問ですかコレは！
「…はっ…ぁ……うっ……」
溜まりに溜まった欲情と快楽をどうにか逃がそうとして、肩で荒い息をしながら頭を振る。
ただ我慢するのではない、イキたくても欲を吐き出せない、塞き止められる苦しさは想像以上に辛かった。いくらエナから眼をそらそうが、
頭を振ってみようが、腰に溜まった欲が紛れる事はなくて、その上さらに刺激を当てられ続けらるのだ。
耐え切れず、自然に腰が浮く…
「…サジ…エロい顔してる……」
「…バ……ふっ…ぁあっ……んっ…」
バカ！お前のせいだ！！
と、反論しようと口を開いたのがまずかった。その開いた僕の口から出てきたのは……こっぱずかしい喘ぎ声だけだった。
「やっぱりね〜」
ふと俺自身から口を放し、エナは潤んだ金色の瞳で僕の顔を覗きこんできた。
未だに根元を握られていて、いっぱいいっぱいの僕にはそんな彼の表情を読み取るだけの余裕はない。
「やっぱ俺、あんたの事かなり好みみたい。」
それだけいうと、もう一方の手で俺自身をつるりと撫で、濡れた感触を楽しむようにゆるくしごかれる。
「顔とか〜、身体とか〜、声とか。それにその素直すぎな性格と反応も。」
それでも「好き」ではないのか。「好み」なんだ…まぁ、嫌われてないようでよかった…
どこか遠くで他人事のようにぼんやりと、何の気無しにそう思っていた。
「…あっ…ぁっ」
小休止をはさみましたよ、と言わんばかりに、再び中心を咥えられ、そのザラついた舌に曝される。
僕の股間で上下するエナの頭の動きが早くなり、更に僕を追い立て始める。
もう、肩で息をするのが精一杯で、思考やら意思やらそんなものは投げ捨てていた。
「…もう…イカせ…て…」
「そう…その顔イイ…」
また先端だけを咥えながらエナが喋る。不規則に舌やら歯が当たって快感を通り越して、苦痛にさえ感じる。
もう限界とばかりに、頭を左右に振ってエナの頭を上から捕まえる。
その途端、奥までいっぱいにくわえ込まれて、根元を締め付けいていた手を急に解かれ。
「うぁあっ…」
エナの口の中で…放ってしまった。
真っ白になった頭が少し醒めて来て、肩で荒い息をしながらエナを見やると。ゴクンッ…と喉が上下するのを見てしまった。
「…のっ…のっっ！？」
「うん、飲んだよ？あ〜…でも飲みきれなくてちょっとこぼしちゃった…」
「バっ…！」
しれっと言われて顔中に血が集まってくる。
エナはそんな僕の様子などお構いなしに、ようやっと自分の身体を後ろ手に身体を支えていた両腕を掬うようにベッドに押し倒した。
エナ自身も僕の上に乗りかかってきて、素肌どうしが密着する。…エナの身体は熱かった。
…まぁ、これでだけで終わるはずがないんだよね…、当然エナには「続き」がある…
男としてのプライドとか、そういうものもちょっとはあったけど。でも、以前彼を抱いてしまった僕としては「下は絶対にいや！！」と言うだけの
根性もなかった。情けない…
怖いと言えば怖い。未体験ゾーン突入だし…生まれてこの方、排泄にしか使った事のない場所を他人に曝されるわけだし…
…でも、他のオトコとヤルなんて想像もできないけど、こいつとなら…いいか。とか、思ってしまっていた。根拠は何もない。
好きかと言われれば、多分「好き」だけど、恋愛感情とは違う気もするし。さっき…最中に言っていたエナの「好み」っていう、
あれに近いのかな…
「何色々と考えてるわけ〜？」
エナに声をかけられて、ふと我に帰る。なんか、全部お見通しって感じだね、君は…
そのエナの口には、やはりあの小枝のようなものが咥えられていて、キシキシと噛みしごいているようだった。
「それって、そんなにイイの？」
「そりゃ〜、♂にはサイコーに効くよぉ。」
♂限定なんですか、それ。ああ、そうか…少ない雄は大勢相手にしないとなんないもんな…。そういうのもアリなのかもしれないな…
なんとなく根拠のない理由で納得している間、エナは少し何かを考えているようだった。
「そうだねぇ〜、俺だけ酔ってるってのもなんだし…」
やっぱりあの潤んだ艶を含んだままの瞳をすっと細め、くすくすと笑う。
エナが動く気配がして、ふと身体の上から重みが消える。
「…？」
押し倒され、エナの身体の下敷きにされていた上半身を何気に起こしてエナを目で追うと、なにやら入り口近くに放り出していたらしい
自分の荷物をごそごそと漁り始めていた。
「これ、おみやげ〜。」
入り口近くにしゃがんだままのエナから何か放り投げられ、反射的に受け取るとったそれは飲料用の瓶で、手にした勢いでたぷんと
水か何か入っている様な音がした。
「何？」
「さ〜て、なんでしょう。」
ハテナマークが頭をいくつも横切っていく。なんとなく見た事のある茶褐色っぽい液体。
「本当は温めた方が香りが立つからお勧めなんだけど。」
そう言いながら、エナ自身の方は革袋の飲料水に口をつけ、のどの渇きを潤している。
温める…液体？受け取った瓶をしげしげと見つめていて、ふと思い出した。以前会った時に飲ませて貰った、エナ特性の果実酒だ。
確か甘酸っぱくてシナモンとかスパイスの香りがする、ちょっとキツ目の酒。
「ありがとう。君特製のあのお酒、また飲めるとは思わなかったよ。」
そう言ってその瓶をベッドサイドへ置こうとした時だ。僕の手からエナが再びその瓶を取り上げた。
そして瓶のふたを片手で器用に開けると、クイっと一口…
「あ。」
それ、今飲みたかったのか、とか思っていた矢先。
唇を塞がれた。
「…んっ！？」
甘くて少し酸味のある液体が口内に流れ込んできて…ごっくん。飲み込んでしまった。
口移し！？ 今のって、まさか口移しですか！？
続けて瓶に口を付けたエナに再び唇を塞がれる。
さっきと同じ味の液体が注がれて、でも飲み下せなかった残りが口のハシから顎を伝い落ち、ぽたりとシーツに染みをつくった。
「ケホっ…、ちょっと待った！これ、かなりアルコール度高いよっ」
「知ってるよ〜。俺はマタタビで酔っ払ってるから〜…あんたもお酒で酔っちゃえばいいと思ってぇ。その方が気分も楽でしょぉ〜？
初めてなんだから、緊張しちゃうだろうし〜…」
何気に恐ろしい事を万面の笑みで言われている気がして、ちょっと血の気が引いた。けど、それよりも飲まされた果実酒で胃の辺りが
熱い。これは…エナの思惑通りすぐに酔えそうだ…
……僕が何と言おうと、多分エナはやめる気はないんだろうし。いやむしろ、ヤル気満々？
ついさっきも開き直ったところじゃないか、…なんて自分を納得させようと努力してみる。
「ねぇ…そろそろ続き、しない？」
色気を湛えた少し低めの声で、耳元に小さく囁かれる。それだけでエナから逃げるとかそういう事はもう考えられなくなっていた。
降参デス…。
そして、さっきこぼした酒の跡を、顎から口角までついっと舐め上げられ、
そのまま再び唇を塞がれる。薄く唇を開くと、そこからするりと彼の舌が割り込んできて、最初はゆっくりと、そして段々に追い詰めるように
僕の口内の粘膜をすっていく。
「…んっ…ふ……」
時々彼の息が漏れて、それを聞くたびに耳からも犯されていくような気がして、背中を快楽的な痺れが走りぬける。
そのまま上半身にエナの体重をかけられ、抵抗せずゆっくりとベッドに背を預けた。再び密着する皮膚。けど、今度はエナの身体が
少し冷たくさえ感じた。どうやら今は僕の身体の方が、さっき飲まされた酒で全身火照ってきてるらしい。思考もなんとなくいい感じに
麻痺してる…軽い浮遊感のようなものまで感じてるし、これは酔ったな…。お酒に？…エナに？……どっちでもいいか。
さっきのフェラもそうだったように、自分で「上手い」と言っていただけあって、エナの愛撫はとんでもなく気持ちがよかった。
そして後ろを初めて触られたのにも違和感を感じさせなず。もっと寒気のような悪寒があるものだと思ってただけに、エナの手腕というか、
それに慣らされている自分の身体にもびっくりした。でも、さすがに中を解され始めた時には快楽とはかけ離れた感触に、体中が拒絶して
硬直したけれど。でも、それもそう長くはなかった。
内臓の中なのに、本当に感じるポイントってあるんだ…。話には聞いていたし、…実際エナの身体でそれも実体験して知ってはいたけど、
まさか自分の身体でそれを実感する日が来ようとは思いもしなかった。
片手で僕の中心を煽り、その快感に感覚を反らせながら、ゆっくりとエナ自身が僕の中に押し入ってくる。…さすがにその圧迫感
はその程度じゃ紛れきれなくて、背中を反らせてしまった。多分、変な声とか出ちゃってるんだろうけど、頭が真っ白でそれどころじゃない。
「サジ、サジ？やっぱ辛いよな…」
遠くでエナの声がしたような気がする。
「ごめんね、でもサジん中すっげー気持ちよくて俺もう止まらない。」
いや、止めなくていいから、早く終わらせて…イカせて…
「………え……なぁ……」
「そう…俺の事、もっと呼んでよ…イイトコもっと突いてあげる。」
「…え…ナ……エナ…」
本当に聞こえてるのか幻聴なのかわからない。酔いのせいか、苦痛のせいか、快楽のせいか、多分全部。
ただ、その後エナに身体の奥まで貫かれて、されるがままに腰を揺さぶられた…ような気がする。
気がつくと、僕の横で安らかな根息を立てて寝ているオスラの顔があった。
…僕、寝てたのか…
動こうとして腰に痛みが走り、さっきまでの事が現実だった事を思い知らされる。恥ずかしいやら、ちょっと悔しいやらで顔がカっと熱くなる。
よく考えたら、今日の僕って散々じゃないか？
楽しみにしていた鉢植えは結局全てオシャカだし、その上当の犯人に…押し倒されていいように丸め込まれてしまったわけだし…
ああ…マジでモーグリを外泊させといてよかった。
お母さん、お父さん。僕の処女、奪われちゃいました。親不幸者でホントごめんなさい…。
―――マジ、もう二度と訳のわからない植物を育てるのは止めます…
そう心に誓った僕だったのでした。
よく朝目が醒めたエナに、一つだけどうしても僕の中で引っかかっていた質問を投げかけてみた。
「君ってさ…」
「ん？」
「その…恋愛経験豊富、…なんだね…」
「は？恋愛？？」
「そう、だって…その……やたら上手くない…？」
「経験は豊富だけど、恋愛は…したことないかな〜。あ、でも今までの中でもサジはトップのお気に入りだから。最中に名前呼ぶのを
許したのはアンタが初めてだよ、光栄に思いたまえ〜」
にっこり笑ったそのカギ尻尾は、僕にちゅっと軽いキスをした。
――…
ギャ―――スッ！！ (((( ;ﾟДﾟ)))ｱﾜﾜﾜﾜ
「あ、どっちかって言うと、俺受け好きだから安心して。」
安心出来るか―――っ！！
カカッとばっくすてっぽで逃げたのは、言うまでもない。
fin.