to depth で登場した脇役が主人公。

Bind

 

 

「イテテ…」

「あーもうっ、じっとしとかんかいなっ」

「こんなのケアルすりゃいいんだよっ」

 

口元を多少切ったくらいだというのに、この女ときたら消毒するだの言い出しやがって。

面倒なんだよ…こんな事いちいちされちゃさ。

 

「ただの喧嘩のケガでケアルは禁止やて言うたやろ!凝りへんねんから。」

「そんな約束はしてねぇっ!!」

 

今の今まで俺たちはNMを狙って流砂洞に篭っていたのだが。

 

「ヤカマシ!ダマレ!!しょうもないケンカが多すぎなんやアホ!漢やったら少しくらい我慢しい!!」

 

ちょっとしたトラブルでその場を引き上げてきたところだった。

 

「アホって言うな!ったく、つくづく品ってもんがないな、お前…。それに俺は黒魔道士でお前みたいな脳筋じゃねぇの。」

「あんたの口から「品」なんて言葉が出るとは世も末やわ。それより、あんな言い方したら誰でも怒るん当たり前やろ。」

 

NMの湧きポイントにライバルがいるのは、まぁ当たり前なのだが。ちょっと癪に障るNMの張り方をされたのを、俺が一言文句を

言ったが為に相手を怒らせる結果となり。売り言葉に買い言葉、俺の得意分野へ突入。

それがもとで戦士と黒魔道士が取っ組み合いの喧嘩になったわけで…。

 

「ガキやないんやから、思った事を何でも口にしていい訳ないやん。お陰でうちまで殴られるハメになるねんからな。」

「お前が止めに入らなきゃ殴られる事はなかったんだぞ。」

「あのなぁ…デカエルのアタッカーとちっこいアンタが殴り合いしてて、止めんわけにいかんやろが;」

「ちっこいって言うな!お前よりはでかい。」

「うちはミスラん中でも背がでかい方やもーん。」

「うわ…ムカツク女だな…」

 

どうも…こいつと喋っていると、いつでも調子が狂う。

多分、このキツイ方言のせいもあるんだろうが、この俺がいつの間にかこいつのペースにいつでもハメられてしまっている。

でも、それが俺には嫌じゃない。裏表のない単純な脳味噌が俺には心地がいいらしい。

こいつはいつでも自分の気持ちに素直で、真っ直ぐ人を見る。勘ぐらないし、蔑まない。

それがアダになって、あまりに率直過ぎなもの言いに腹が立つ事も少なくないが、こいつは嘘を言わない。その信頼が心地いい…。

 

 

 

俺から誰かをパートナーに誘うなんて事は今までに一度だってなかった。

が、初めてこいつと出会ったパーティーで、いつものクセからその場の雰囲気を俺が落とした時だった。

こいつに一発横っ面をはたかれて、その上殺し文句。

 

「ほんまはそんなキツイ事が言いたいんやないんやろ?」

 

気が付けば、パーティーの解散後に、うちのLSのパールを一匹狼らしかったそいつに渡していた。

受け取ってもらうまでに、それなりに苦労もしたが。なんとなく、こいつなら俺の事を分かってくれるような気がしたんだった。

それから俺たちは何かあれば冒険を共にするようになった。

 

でも、実は…

その類の言葉を俺に投げかけたのはそれが二人目。

 

一人目は年上のエルヴァーン。

かつては俺も憧れていた、冒険者としての大先輩だったんだが…

 

 

 

「ロッシュ、どうかしたん?」

 

暫らく黙っていた俺の様子を伺うようにラチャがその細い指で俺の額を小突いてきた。

 

「ヤメロw」

「何考えてるん?」

「いや。別に。」

「なんや、ちょっとは反省でもしてくれとんかと期待してもたやん。」

 

そう言いながら、ラチャは応急箱の中身を片付ける。

いや、ほんの少しだけなら反省してなくもないんだが…

 

しかしだ。何で魔道士の俺がケガのケアルを禁止されなきゃならないんだか。

ラチャ曰く、「コリロ!」との事らしいが。今更こんな事くらいで、この俺が心底反省するとでも思ってるのだろうか。

それでも、そんな約束でもないような約束を律儀に守ってる俺もどうかしてる…

お陰でLSメンバーと顔を会わせる度に、バカ喧嘩がいつもバレバレなのだ。

ラチャの奴もそういいつつ。

 

「あんたはアンタらしいのがやっぱり一番やし。思うようにしたらええよ。うちが何ぼでもフォローしたる。」

 

いきなり優しげにそう言われて、はっと顔を上げると。

ラチャはそんな俺を見てにやりと笑った。

 

「代りに殴り合いしたってもええしなw」

「それはダメだろ…」

 

あぁ…わかった。

というか、忘れてた。そう言えば、こいつは「モンク」なんだよ、根っからの。

 

「あんたのパンチが一発あいつの顔面に入ったやんか?あんときはスカーっとしたわw」

「お前こそあいつの事殴りたかったんだろ?w」

 

なんで忘れてたんだ?

 

「当たり前やん!でも、そこをガマン出来るところがあんたとの大きな差やねんで?w」

「と、言うより。短気なお前の暴力より、先に俺の口が出ただけだろが?」

「アタリー。よくお分かりでw」

「わからんでか。」

 

だから、あそこで「もしも」だぞ?

もしも、俺があそこであの一言をガマンしてたとしても、結局喧嘩を吹っかける奴がこいつになったってだけで、あの状況は

免れなかったって事なんだよ。

 

なんだ。すずめの涙程でも落ち込んで損した…

 

そして俺たちはお互いの顔を見合わせて腹を抱えて笑いあった。

 

 

 

 

それから何日か経ったある日。

いつものようにミスラ・モンクと他愛のない話をしながら港の競売前で装備一覧を眺めていたときだった。

 

「なぁ、さっきから変な奴がアンタの事ずーっと見とるけど…」

 

そう言って、ラチャがちらっと視線を動かして、ある方向を指すように少し顎をしゃくって見せた。その顔はそいつにしては珍しく、

街中にも関わらず少し神妙な表情をしていた。

変な奴…?

そんな知り合いは居ない。恨みを買うような事なら色々と覚えはあるけどな。

 

ラチャが視線を向けていた方へ振り向いた俺は…その場で硬直した。

 

「知り合い?」

 

そう聞かれたが余りにも驚いていて、いや…恐ろしさから足がすくんで、何も言えなかった。

俺に視線を送ってきていた本人と目がかち合って、身動きがとれない。

 

――知り合いも何も。

 

そこに立っていたのは年の離れた長身のエルヴァーン。嘗ては毎日のように顔を見ていた奴だったが…。

 

「………」

 

そんな俺の様子を目の前のエルヴァーンと横に立つラチャからじっと見られている。

…動けよ、俺の身体!視線を外しゃいいんだ!!

 

俺の背中を冷や汗がつぅっ…と流れる嫌な感覚がしたのとほぼ同時。

ずいっと俺の前にラチャが立ちはだかり、奴とかち合った視線を遮った。

 

「おにぃさん、うちの相棒に何か用でもあるんかな?」

 

向こうは「おにぃさん」と呼べる年でもないんだが…。

実際、俺たちとは一回りほど年が違うし。

 

一瞬的外れな思考がよぎり、そのお陰で俺は金縛りから解放される事ができた。

俺の様子に異常を感じ取ってくれたらしいラチャの行動に助けられた。

借り一つだな。

 

「………いいんだラチャ、その人は。」

 

やっと呼吸が出来た俺はラチャの肩を軽く引いた。

 

「今はもうOBだけど、うちの古いLSのメンバーなんだ。」

「…そう。それは悪かったわ。すいません、うちは新参者やから堪忍な。」

 

多少納得がいっていないような雰囲気もあったが、ラチャは一応素直に謝った。

 

「いや、知らなくて当然だよ。もう、かれこれ3年はメンバーとして活動はしていないからね。」

「何しにジュノなんかに来たんだ?」

「おや、久しぶりだというのにご挨拶だね、ロッシュ。」

 

そう言ってそいつはにこやかに笑って見せた。

…俺の苦手なこの笑顔。食えない奴なんだ、こいつは。

 

「私はデュランデールと申します。初めましてミスラ殿、どうぞデュランと呼んでください。」

「ラチャです。脳筋やってます。」

「あははっ…面白いね、このお嬢さんは。」

 

ラチャの奴、あいつの印象が相当悪かったらしい。にこりともしない上に、挨拶に差し伸べられたあいつの手を完全に無視してやがる。

生まれながらのミスラの狩人としての勘なのか。

単純で、おまけに普段は能天気なこいつが露骨に初対面の人間に「私はアナタがキライです」なんて態度を示すことなんてそうそうない。

 

「ロッシュ、用があるんだ。後でいいから私の部屋まで来てくれるかい?」

 

表面だけはにこやかなこのエルヴァーンは俺にそう言うと、メモを手渡してきた。

 

――モグハウスの部屋番号だ。

 

行きたくなんてない。こいつの用なんて、ろくでもない事に決まってるんだ。

…けど俺は。こいつには、こいつにだけは昔から逆らえない。

しぶしぶ頷いた俺を確認すると、やつは「デートの邪魔をして悪かったね。」などとぬかして去っていった。

 

「…あいつ、何モンなん?」

 

エルヴァーンの姿が見えなくなってから、ラチャが唸るようにそう聞いてきた。

 

「用があるって言っとったけど、いくん?」

「…わかんね。」

「なぁ。行くにしても、何かあったら直ぐにうちを呼びや?」

「なんだよ、いきなり物騒だな。大丈夫だって。昔の仲間だぜ?」

「その割にはめっちゃ警戒してたやろ。」

 

ラチャの耳が真っ直ぐこっちを向いている。

俺が今、表面を取り繕ってるのも、きっとばれてるな。

 

「ロッシュが大丈夫って言うんなら、うちの思い過ごしなんやろけどね。ちょっと鳥肌立ったもんやからさ。」

「……」

「知り合いのこと悪く言うみたいで、ごめんな。気い悪うした?」

「いや、あいつは元々誤解されやすいタイプだから。」

「…そうなんや。ごめん。」

「謝んな、連絡もなしにいきなり現れたあいつが悪いんだから。びっくりさせやがって…」

 

本当はそういう問題なんかじゃない。

俺は奴が大の苦手なんだ。もう長い間顔も合わせてなくて、あいつのことを忘れてたほっとしてたのに。

とっくに冒険者登録なんて抹消してたと思ってたのに、何で…モグハなんか借りてるんだよ……

 

「何かあったら必ずうちを呼んでや?」

 

念を押された。

いや…何かあったとしても、多分呼べないし。

 

「…あいつには勝てんかもしれんけど。アンタは絶対守るから。」

 

どこか遠くを見るように、そして口の中で小さく呟かれたその言葉を俺は聞いてしまった。

でも、聞こえなかった振りをした。

 

本当にあいつとラチャの間で何かあったとしたら…きっとラチャは無事じゃ済まない。

いくらラチャが高レベルモンクで腕が立つ方だとしても、あいつは特別なんだ。特に脳内が危険なレベルまで逝ってしまってるからな…。

その時はタイマンで勝てたとしても後が恐ろしくて。想像しただけで背筋を悪寒が走り抜けていった。

 

でも。そんな事になるはずがない。俺さえ下手な事をしなけりゃ。

 

そして俺は言われるままに、その日の夕方そいつの部屋を訪ねた。

 

 


 

 

「来てくれると思ってたよ。」

 

そう言った奴の顔は俺に「ここへ来ない」という選択肢がなかったって事を知り尽くしている顔だった。

 

「本当に久しぶりだね。」

「とっくに冒険者登録なんて抹消してるもんだと思ってたのに、今頃なにしにきたんだよ。」

「かつての相方に随分な言い様だねぇ。」

 

くすくすと口元だけで笑いながら、やつは俺を見下ろしている。

…時々全く読めなくなるこいつの表情。デュランの口元と、目と、言っている事が一致しなくなる。

俺はコレが怖くてたまらない。久しぶりにこいつを目の前にして、改めて自覚せざるを得ない。

 

「あんたが勝手に俺の事を放置してたんだろうが。3年間…」

「確かに、私の自己都合だが、それだって私自身の意思じゃないさ。」

 

――俺の知ったことか。

 

「あんたの子供も、もう2才になるんじゃないのか?俺なんかに構ってないで奥方と子供んとこへいきやがれ。」

「ふふ…相変わらずの口の悪さだな、ロッシュ。」

 

奴の口の端がくっと釣り上がり、他人にはやさしく見えるその瞳が更に細められる。

…こいつがこういう表情をする時は、大抵ろくでもない事を考えている。

 

「奥方は…さて、今は何処におられるのやら。実は私も知らなくてね。」

 

なんだそりゃ、逃げられたのか?

大笑いだな。いい様だっ!

 

「子供も両親の養子として大事に育てられてるよ。後継ぎさえ生まれれば、あんな女に用はないからね。」

 

そして俺を見て、奴は意味ありげに笑った。…その不適な笑みの理由を俺は知っている。

 

「もっとも、あれも私の子であるはずがないがね。」

 

そうだ。それは俺とその女だけが知っている、奴の秘密だ。

奴は回りの全ての人間を欺きながら生きている。

俺には分からない。そこまでして体裁を取り繕い、嘘を嘘で上塗りして嘘を貫き通す。そして自らの手で嘘と真実を入れ替えてしまう。

その重ね塗りした嘘の一つでも剥げ落ちたなら全てを失うだろう、そこまでのリスクを望んで背負う、その生き方が俺には分からない…。

 

その嘘を守り抜く為にも、奴には俺を絶対的な支配下に置く必要があるって事も、実際に奴と離れてみて最近分かるようになって

きた事だった。

 

「………サイテーだな、あんた。」

「それだって私の意思じゃないさ。両親が望んだ事だし、私にとって家などどうでもいいんだけどねぇ。」

「自分勝手なのは親譲りかよっ。」

「まぁ、そうかもしれないね。」

「…あんたが一番サイテーなのは俺が一番よく知ってるけどな……」

「そうだったな。」

 

奴の身体が俺に近づいてきて、警戒心から俺の身体が硬直する。

 

「その身体は今でもサイテーな私のことを覚えているかい…?」

 

耳元で低くそう囁かれて、一層身を堅くする。

 

「ふふ…覚えているようだね。」

「……まさかとは思うが、俺が目当てでジュノまで来たんじゃないだろうな?」

 

目は合わせない。この瞳に覗き込まれたら、何かに身体を巻き取られたかのように動けなくなりそうで恐ろしい。

 

「いけないかい?」

「マジで救いようのない馬鹿だな、あんた。」

「そう言いつつ、私の部屋まで言われるまま来る方もどうかしてると思うがね?」

「…………」

 

そう仕組んだのは誰なんだよ…

当時から散々俺にあんた自身に対する恐怖心を刷り込んでおいて、よくもそんなことが!

 

言ってやりたかった。

だがそれを口にする前に、俺はその蒼い瞳に捕まってしまって身動きが取れなくなっていた。

くすんだ蒼い瞳に覗き込まれる度に、心の奥底まで見透かされる。いきなり素っ裸にされたような不安感。

 

駄目だ…あれから随分時間も経ってるというのに。

この蒼い瞳に覗き込まれると、それがトリガーとなって古い恐怖心が奥底から呼び覚まされる。

…今から思えば、何がそんなに恐ろしかったのかと思うのだが。一度持ってしまった強烈な恐怖心はトラウマとなって精神の壁に張り付いて。

俺はそこからまだ逃れられずに居るのだと、思い知らされる。

 

身体が小さく震えだしていた事に俺は気が付いていなかった。

 

「いつもは強気なロッシュの瞳がね…」

 

奴の顔が触れそうなところにまで近づいてくる。

いつでもにこやかな顔をしているくせに、笑わないこいつの目が俺の頭の中をかき回す。

噛み締めていた奥歯がギリッっと音を立てて軋んだ。

怖い……喉から心臓が飛び出そうで、声が出せない。

 

「私を見て怯えるように震えるのが、私は大好きなんだよ。」

 

こんっのサディストが…!!

いい年して、変態趣味にも程がある。いい迷惑なんだよ、いい加減にしてくれっ!!

 

奴の手が俺の顎を掴んでくる。力はそれほど強くはない。なのに、俺は動けない…。

武器を持つ事のあまりなかった手の指は細くて長く、その大きさを覗けば女性の手のようですらある。

その指で軽く顎を上へ向けられる。

 

――キスされるっ

 

そう思った瞬間に反射的に歯をさらに食いしばり目を閉じていた。

 

お互いの鼻先同士が触れたところで、ふっと奴の動きが止まったのを感じた。

触れそうで触れない距離のところで奴の呼吸音が聞こえる…。そしてすぐそこで、デュランが笑う気配。

何かあったのかと思ったその一瞬…食いしばっていた奥歯の力を緩めた途端に唇を塞がれ、慌てた俺の動揺に乗じてきた奴の舌まで

侵入を許してしまった。

 

――ちくしょうっ!フェイントかよ!!

 

逃げようとする程に俺の顎を強く押さえられて、逃げるに逃げられない。

おまけに…バカヤロっ……そんなに舌を押しこまれちゃ、息が…くるし……い……

 

「…っ!」

 

奴の眉がピクリとゆがめられて、反射的に俺の身体から離れる。

ザマミロ、俺だって時には抵抗できるんだ。

 

「少し見ない間に随分反抗的な態度をとるようになったじゃないか。」

 

口元に滲んだ血を手の甲で拭いながら、奴の目が一層細められる。

 

「しかし…それで私に抵抗しているつもりかい?」

 

俺が余裕の表情を浮かべていられたのも一瞬だった。

奴の顔を睨み上げる。俺だって黙って好き放題される気なんてないんだ。

今の俺は、3年前のあの頃とはもう違うんだ。あんたの手を離れて、時間も経った。

変わるんだよ、人は!

あんたは一人で馬鹿みたいに同じところで足踏みしてやがれっ。俺はそんな生き方はイヤだ!!

 

頭の中で奴を批判する事は出来ても、それを言葉に出来ない…

今の俺は奴の目の前に居る事を、奴の視線に晒されている事を絶えるのが精一杯でいる。

3年前まで曝されていた、あの忌まわしい思いがまた繰り返されるのかもしれない恐怖。

 

俺に向かって伸ばされた腕を力任せに振り払う。

が、タッパも手足の長さもヒュームより段突に長いエルヴァーンの奴に適う訳がなかったんだ…。

抵抗も空しく、俺はすぐに両腕を押さえ込まれて、そのまま縺れ込むようにベッドへ押し倒されてしまった。

こんな時ほど自分の体格の小ささを呪う事はないよな…。

 

「放せよっ!」

 

あんまりにもあっさりと押し倒された自分の不甲斐なさに悔しくて、涙まで出そうになる。

目頭が、鼻の奥がじんとして熱くなるのを、強引に気をそらせて抑えこむ。少しだけ、鼻が鳴ったのは…気付かれなかったと信じたい。

暴れようとする俺の身体を器用に押さえ込みながら、奴がくすりと笑うのが聞こえた。

 

「お前を大人しくさせる方法などいくらでも知っているんだがな…抵抗されるのも悪くないもんだ。」

 

そう言われて、今俺がしている抵抗の全てが無駄なのだと改めて思い知らされ、一瞬目の前が真っ暗になる…。

そうだ。そういう奴なんだ、こいつは…。

 

 

俺が冒険者に成りたての頃、既に奴は高レベルの詩人だった。

前衛ジョブに固執していた俺に後衛を薦め、後衛ジョブの特性から立ち回り方まで手取り足取り俺に教えてくれた、師匠的存在だったデュラン。

当初は奴の本性なんて知りもしなかったから、俺はただ師として奴を慕っていたのに…

ある日、その信頼は突然裏切られた。それも一番屈辱的な方法で。

 

ある晩、いきなり奴に押さえつけられた俺は、後から部屋に入ってきた見知らぬ男たちに無理やり犯されたのだ。

それからだ。奴が俺を脅し、俺を性奴隷の様に扱いだしたのは。

 

――ただ、奴自信が俺を抱いた事は一度もなかったが。

 

 

何で今更、俺の前になんか戻ってきたんだよ………このまま放っておいて欲しかったのに。

あんたにガチガチに拘束されていた数年間から何の予告もなく急に解放された俺がどんなに戸惑ったか、あんたは知ろうとも

しないだろうな。

 

今でも俺があんたをどれだけ………

 

 

 

 


 

 

「抵抗されるのも悪くはないんだが…少し大人しくしてもらうよ。」

「なっ!?」

 

デュランの言葉に記憶の中にいた俺が現実に引き戻される。

そして、そう言うが早いか奴は俺の腕をまとめ上げると、あっという間に縛り上げた。

その一連の動作の無駄のなさに、抵抗する隙もない。

 

ジタバタと暴れる俺のチュニックを器用にたくし上げられ、脱ぎきれないそれが俺の腕に絡みついたままで更に自由を奪われる。

下半身の装備に手がかけられて、目の前に迫った身の危険に今更だが目の前がクラリと歪んだような気がした。

蹴飛ばす勢いで抵抗したものの、うつぶせに押さえ込まれ、呆気ない程簡単に奴の目の前にケツを晒け出す俺。

 

「ゥぐっ…」

 

悔しくて、恥ずかしくて……怖くて…、食いしばった歯の隙間から声が漏れる。

うつぶせでシーツに顔を埋めたまま、身を縮めて動けない……嫌だ……誰か…タスケテ……

 

助けを求めらる相手は居ない。

でも、何かに縋りたくて―― 一瞬ラチャの顔が脳裏をよぎったが、ダメだ。それだけは絶対に出来ない。

こんな醜態を知られるのも耐えられないが、何よりアイツを巻き込むわけにいかないんだ。

もし、ラチャがデュランに目をつけられでもたら………

 

それを考えただけで、罪悪感に襲われる。

 

 

殆ど素っ裸にされたまま、うつ伏せの状態で身動きをしない俺の背中に、デュランの視線を感じる。

……痛い……

そして、ほんの少しの布ズレの音と、空気の流れで、奴が動いたのに気が付いた。

いきなりケツを捕まれ押し広げられ、指とはいえ前触れも何もないまま、いきなりアナルにその見た目だけが細い指が押し込まれた。

 

「うああぁっ!」

 

無理な摩擦の痛みと内臓に侵入してくる異物感に全身が硬直する。

 

「…いっ…つぅ…!」

 

急に襲ってきた痛みと内臓への違和感に、己の手を縛っているロープを握りこみ必死に耐える。

 

「…もう…や、……めぇ…」

 

制止のつもりで必死に搾り出した声は、かすれて言葉になっていなかった。

そんな俺の様子などお構いなく、ただ目の前の身体の自由を手中に収めた優越感からか。デュランが笑う息遣いがかすかに聞こえて…

俺の中で音を立てるように何かが弾けとんだ。

俺は…俺は……違うんだ!!

 

「ぁ……あんた………玩具……ねぇ…っ!!」

 

途切れ途切れにしか喋れない。ハタからは何を言ってるのか分からないかもしれない俺の言葉に、意外にも奴の動きがとまる。

奴の表情を見ようと、苦し紛れに少し目を開けてはみたものの、影になってその顔をはっきりは見ることは出来なかった。

 

「…ほぅ?そんな事が面と向かって言えるようになったのか。随分変わったものだな。」

 

低く小さな、独りごとでも呟くような声が俺の耳に入ってくる。

続いてクックと喉の奥だけで笑う声がして、一瞬その声に俺の血の気が下がっていくのを感じた。

 

「今更、本気でそんな事を思っているのかい?」

 

それは俺の恐怖そのものを音にしたような声。いつものようにデュランの口元がふっと笑いの形をとる、それすらも俺を萎縮させる。

その言葉と同時に、俺のアナルに突っ込まれていた指を一気に引き抜かれ、激しく内臓を擦られる刺激が背筋を駆け上がる。

反り返った身体に引っ張られて、俺の両手首を縛っている縄が絞まって軋んだ音を立てた。

 

「お前は私の玩具のそれ意外になんだと言うんだい。」

「!?」

「私だけが弄べる、玩具さ…。そして、それはお前も望んでいるだろう?」

「勝手…に決めんなっ!!……何様のつもりなんだよ、アンタはっ!?」

 

こんな言葉のやり取りに意味なんてあるわけがないのに。

けど、黙っていいようにされるのは癪すぎる。

 

そんな抵抗らしい抵抗も出来ない俺の悪態振りを冷めた目が見下ろしている…。くっそっ!ムナクソが悪いったらない。

 

「…私が居なくなって、物足りなさを感じた事がなかったと?その体が私を求めて一度も疼かなかったとでも…?」

 

奴の手が俺の肩を掴み、うつ伏せのまま……デュランの視線から逃げていた俺の体ごと上を向かされる。

半ば強制的に視線を合わせられる。

上を向いた俺の視界に入ってきたのは、俺を食い入るように覗き込んできたデュランのくすんだあの瞳の色………

そのデュランの口元が見慣れた形に、意味ありげに人を見下したあの表情を作りあげていた…。

 

「………」

 

抵抗の時間は終った……

視線だけを奴から引き剥がしても、もう遅い。

そんな事、答えられるわけがない。そんな屈辱的なことを。

あんたが知らない訳がない。分からないはずがない。

悔しいが、俺はあんたに身体の反応を知り尽くしされている。それを認めるのは腸が煮え繰り返るくらい屈辱的だけどな…。

 

「そうやって黙るのが、何よりの証だな、ロッシュ……そんなお前が愛しいよ…」

「ダマレ!一度だって俺に愛情なんて抱いた事なんざないくせに!!」

「おや、心外だね。私はいつだってお前を愛していたよ。」

 

俺が大人しくなったのをいい事に、さらっと言いやがるな…このタコ。

 

「口から毒を吐くんじゃねぇ!虫唾が走る…」

 

強がりだろうがなんだろうが好きに言えばいい。

目の前の恐怖から逃げたくて、逃げられないのも知ってるのに…もう俺は必死だった。

 

 

――でも、そのデュランの言葉があながち嘘じゃないって事を、本当は知っている。

こいつが特殊な人の愛し方しか出来ない事を。その性癖を。そして、性的欠陥を。

その為にこんな方法でしか人を愛せないのだと、知っている。

嘗てはそれを哀れにも感じて、奴の独特の愛情も俺なりに認めているつもりだった。

…でも、「認める」事と「完全に受け入れる」事は同一じゃなかったけれど……

それでも、当時は俺なりに受け入れられる部分は努力した。

 

こいつが望むままに、時に身体を好きにさせ、時に抗い、望まれるまま飼いならされない犬になり。

今だってそう。やつは俺に従順な飼い犬であることを望んでるわけじゃない。

そして俺も決して飼いならされたりしない。飼いならされたいわけでもない。

 

よほど他人からはそれが愛情表現とは思えないような、そんな扱いだったけれど、それでもやつは俺を自分なりに愛した。

人嫌いな奴が俺を傍に置いて、放さなかった…。

 

…けど、俺はこいつを最終的には愛せなかった。その思いには応えられなかったし、応える術を俺は知らなかった。

それでも持ちつづけていた愛情に似ていたあの感情は、

 

――多分同情。

 

そんな事、こいつに知られる訳にはいかない…。

 

今はもう、こいつの愛情を受け入れるだけのキャパが俺にはない。

デュランの傍を離れていた期間が長すぎて、俺は解放される事に慣れきってしまっている。

…もう、あの頃みたいには戻れない。

 

 

 

「そう言えば、あのミスラ。ラチャとか言ったかな。付き合いは長いのか?」

 

デュランがふと俺から視線を外す。その口もとには意味あり気な笑みが浮かんでいる。

急な展開に、一瞬事態が分からなかったが。その釣り上がった口元の不適な表情に嫌な予感が俺の中を駆け抜けていった。

一瞬にして冷や汗が噴出した寒い感覚が全身を襲う。

 

「…べつに。」

 

奴から視線を外して事も無気に応えてはみるものの、何処となく不自然なのは否めない。

不安を表に出すまいとすればする程、身体が硬直していくのが自分でも自覚できていた。

 

デュランの言う『付き合い』というのが何を指しているのかそれは分からなかったが、ラチャとは少なからず男女の仲じゃない。

冒険者の相棒としても一年と半年経ったかどうかというところかな。付き合いの長いうちには入らないだろう。

けどラチャを引き合いに出してきた時点で、俺にはその意味が多分分かっている…

 

「随分とお前思いないい子じゃないか。私からお前を守ろうとしていたね。」

「何を考えてるかは知らないが、あいつはあんたと俺の間には無関係だ。」

 

こんな言い分がデュランに通用するはずもないに決まってるのに。黙ってればいいものを、俺は余計な事を言っている。

普段ならこんな見え透いた駆け引きでヘマなんてしやしないのに、デュランの前では俺はただのガキでしかない。

こんな時に役に立たなくて、いつ役に立つんだよ…俺の減らず口……。

ただでさえ歯がゆくて、悔しくて、どうにかなりそうなのに、体の自由も奪われている事が更に虚しさを掻き立てる。

 

「いや、十分に関係あるだろう。何しろお前の『大事な存在』らしいからな。」

「あいつに何かしてみろ!俺はあんたを……くっ」

 

全部言い終わらないうちに、浅黒い長くしなやかな指が俺の顎をいきなりワシ掴みにしてきた。

顎を掴んだ指先が肉に食い込む程の強い力に、顎だけじゃなく首にまで痛みが走る。

 

「許さない?ならどうする、私を殺すかい?」

 

にやりと奴の口角が釣り上がる…。

目が…笑っている。さも楽しそうに。

 

「以前から言い含めておいてやったのに。『大事なもの』など作るなと。それはそのままお前の弱みなるとね。」

 

めったに笑わないデュランの瞳が俺を見て笑う。

ああ……俺の反応に満足なのか。俺があんたを憎めば憎むほど、あんたはシアワセなんだろうか……

その感覚だけは俺には分からないよ。

 

「ふむ…お前に殺されるなら悪くもないが、今はそんな気分でもなくてね。」

 

俺に憎まれる為に、あんたは俺を苛め抜いてきたのか?何故、その対象が俺なんだよ。

結局、どうしたいんだあんたは…

 

………あんたは……?

 

俺の頭の中を、3年前のイメージやら感情やらがぐるぐると回る…

何を考えているのか、考えたいのか、自分でも分からない。

……頭の芯が脱力したように思考がまとまらなくなっていく……。

 

最初はそれが異様な緊張感と身体を弄られている感覚から、思考がマヒしてきているのかと思ったが。

――違う。

明らかに何かおかしい。身体が自分のものじゃないような、変な浮遊感が俺の身体を襲う。平衡感覚がおかしいのか?

それに、熱い。身体が火照ってきてる。

 

「あぅっ、ぁ…っ」

 

少し身体のラインをデュランの指がなぞっただけなのに、声が抑えられない。

そんな俺の様子などお構いなしにデュランの指が、掌が俺の身体のあちこちに触れて表面を滑っていく。

身体の何処を刺激されても、女の喘ぎ声のような声が喉から勝手に漏れてくる。

 

「いい具合に効いてきたようだな。」

「っ!?」

 

奴の言葉に反射的に身体を捩って身を離す。

何かされた!?

 

「分かってないって顔だな。本来は口径薬なんだがね、こっちに飲んでもらったよ。少し効きすぎたなか…」

「…あぁっ!」

 

そう言いながら、デュランの指が俺のアナルの入り口をゆっくりと撫で回してきた。

さっきとは比べ物にならない程の刺激に逃げるように身体が跳ねる。

 

「気持ちがいいだろう?何も考えずに、快楽に身を委ねてしまえばいいさ。」

 

その言葉を否定しようとしたが上手く言葉が見つけられず、俺はただ首を横に振るのが精一杯だった。

奴が俺の顔を覗き込んできて、顔が近づいてくる。

……焦点もあってないのか……奴の表情がいまいち読めない。何か見えない網にでもかかった様でもどかしい。

 

――やばっ…媚薬だ。

 

遠くなりかけていた記憶の中に、今と同じような症状があったのを俺は思い出していた。

そうだ、俺の身体を慣らすのに一時デュランが使っていたアレだ…。

 

「抵抗するお前もいいんだが。今は昔の感覚を思い出してもらった方がいいと思ってね、この身体に…」

「…やっ…やだ、やめ……んぁっ」

 

肌に触れられる度に、俺の皮膚を這い回るその指から与えられる感触が強くなってくる。背筋を電気が走り抜けていくような刺激の嵐。

 

「薬が効きすぎか?以前より感度がいいようじゃないか。」

「ひぁっ…!」

 

鎖骨に軽く噛み付かれ、ねっとりと舌で舐め上げられる。

デュランの唇、皮膚の上を這う柔らかく濡れた舌、肩にかかる息、身体同士が重ねられる感触……そのどれもが妙に意識されて、

デュランが少し動く度に俺の脊髄を電気のような感触が走り抜けていき、腰にじんわりと熱い疼きが溜まり出す。

 

「…ぅんっ……あ、んっ…やぁ…っ」

「気持ちがいいんだろう?ほら…腰が浮いてる。」

 

制止の声を上げているつもりでも、喉から漏れるのは女のような喘ぎ声だけ……その声が俺の頭の中に響いて羞恥心を掻き立てられる。

――なのに。

いつもなら悔しくて溜まらなくなるはずのその羞恥心さえも、どんな刺激すらも今の俺には快楽でしかない。

下腹のあたりが快楽の予感に反射的にヒクヒクと異様な筋肉の収縮を繰り返している。

薬のせいとはいえ、こんなに簡単に己の意思を放棄してしまう浅ましい俺自身に、ただ自分の奥底で泣くしかなかった。

 

奴の指がゆっくりと下腹部へと降りていく。

自分の意志なんてお構いなしに身体に与えられる快楽に単純に反応して頭をもたげていた自分自身への刺激を期待して、更に腰が浮く。

 

「……ぁ……あ……」

 

でも、相手はデュラン。期待通りの快楽など与えらる訳なんてなくて。

下へと降りていった手は期待に震える俺自身をかすめるように避け、そのまま太ももへと通り過ぎていく。

中途半派に与えられる刺激と、両腕の自由を奪われている事がもどかしくて……確実に快楽を求める貪欲な自分が俺の中から

這い上がってくる。

分かってるのに、自覚してるのにそんな自分自身を止められない。

 

いっそ、この束縛された時間が早く終るなら…。

そう思う半面で、快楽だけを求めようとする身体はそれを言い訳に理性を早く手放させという。

 

いつだって薬でラリってる頭が快楽に溺れちまうのに、そう時間はかからない。

恐怖と恥ずかしさから縛られた腕に入れていた力が目に見えて抜けていく。

それと同時にデュランに対する憎しみや今この現状への恐怖心も薄れていく。

皮膚感覚は過敏なほどなのに、思考は完全にストップして視界も何気にゆっくり回ってる。

ぬるくて緩い泥の中に沈んでいくみたいだ………きもちいい……

 

「いい子だ。」

 

近くて遠いところでデュランの声がしたような気がする。

 

しっかり薬が回ったのをデュランが確認したのか、自分の両腕がふっと軽くなって解放されたのを知る。

…でも、抵抗するだけの気合いが入らない。

頭の片隅でまだ「逃げなきゃ」と思ってるのに、思考も身体も言う事を聞いてくれない。

ただ、与えられる感覚に溺れていく。

…意識が遠いってこういうのを言うんだろうな……

 

 

俺自身の先端にデュランの指がつっと触れる感触。

そこを早く擦ってほしくて、快楽の期待に身体が硬直して振るえる。

 

「あ…、あっ…!」

 

浅い呼吸に混じって漏れたその声に、耳元でデュランが鼻先で笑ったのが聞こえた。

 

「まだ触ってもないのに、この濡れ様か。よっぽど溜めてたのか、それともお前の本性かな?」

 

くすくすと笑われて、カッと顔が熱くなる。

薬なんか盛っときながら……

 

「やっ、はぁっんぁ……」

 

反射的に首を横に振って否定しようとしても、まともに言葉にならない。

半分頭が錯乱してるような感じで、感情はあってもそれを表に出せるだけの言葉を見つけられなくて。

中心を握りこまれて腑抜けになった腕で、ただデュランに組み敷かれた身体を捩る。

そして抵抗らしい反応を示すと急にそれを握られ、痛いほどの力に息が詰まる。

 

「くぅっ、ぁ……は…はぁっ」

「や、じゃないだろう。こんなに弄ってほしいと主張してるくせに。」

「ちが…っ!」

 

デュランの言いようを否定するのは、もう殆ど条件反射。

辛うじてそう返してみたものの、……違わない。

早く、早くそこを擦ってくれ!とっととイかせてくれよ!!

浅ましく身体が快楽を与えてほしいと勝手にデュランに縋りついていく。

 

「あ、ぁっ!…んくぅ…!」

 

俺の抵抗が止むと、デュランが俺自身をゆっくりと擦り上げはじめる。

その動きと共に、くちゅくちゅと意外なほど濡れた音とその感触に襲われて、恥ずかしさから思わぬ大きな声が漏れる。

 

「イイ顔してるよ。」

「ばっ…か、やろ…!…あ、あっ」

 

擦り上げる手の動きを早められて、早くも俺自身は爆発寸前だ。

 

――…あと……ちょっとぉ……

 

その瞬間。

上り詰めようとする俺の欲望を…多分悟られた。

 

デュランの手が不意に離れ、急に放置された状況に陥れられ。

俺は無意識にデュランの肩に、身体に両腕ですがり付いて欲望の解放を求めていた。

そんな俺も、ひくついたソレも放置したまま、デュランの指がで俺の後ろをなぞる。

 

「んぁっ…!」

 

ついさっきまで与えられていた快楽とは別の感触に、息をひゅっと吸って体がエビのように勝手に跳ねる。

最初とは打って変わって、ゆっくりと侵入してきた指が、少しずつ入り口を、徐々に最初は浅いところを。次いで奥まで広げていく…。

その感触に腰が勝手に揺れる。

指が一本から二本に増えたのか圧迫感が増し、指の動きもだんだんと早くなる。

薬のせいか殆ど痛みもなく、解し初めから溶ろけだしていたそこは、すぐに卑猥な水音をたてだし、その濡れた感触と音だけで俺を追い立て

始め。更に頭を振ってその快楽に耐える…。

 

「ふぅっ…ん、ぁ…」

 

俺の感じるポイントをとうに探り当てているデュランだが、そこをかすめるように、だがダイレクトには刺激を与えない…。

 

焦らされる苦痛と快楽の時間。

自分の吐く息が熱く上がっている事も、甘ったるい声が漏れ出してるもの、もうまったく気にならない…

ねっとりと十分すぎるほど広げられる。

 

でも、それは今までにデュランには見られない行為だった。

なぜなら、奴は絶対に俺の中に入れない。入れられない。

なのに、今日は異様なほど「広げる」ことに執着してるように感じられる。

 

――何故…?

 

与えられる激しくもどこかぬるくてもどかしい快楽の波の狭間で、疑問符が浮かぶ。

 

そして、俺の身体に快楽を与えつづけていた指がゆっくりと抜かれる。その指からの刺激がまだ欲しくて、顔を上げたのが不味かった。

思わずくちゅっと音を立てそこと指との間に糸が引かれるのを見てしまった…

そんな卑猥な情景を見てしまったことを後悔せざるを得なかった。

…自分が、デュランに身体を開けているその姿が異様に滑稽だ……

 

「指よりもっといいものを入れてやるさ。」

 

いつの間に服を脱いだんだか…

そう言ったデュランの視線の先は己の股間にあって、そこには奴が取り出した奴自身が立っていて。

 

――始めてみる、デュランのエルヴァーン特有の大きさを持った彼自身に俺は驚きを隠せなかった。

 

「…なんで!?」

「なんで、はないだろう。」

 

俺に欲情してるからにしか他ならないが…でも。

今まで例えそうだったとしても、そこがそこまでの大きさになる事はなかったのに。

 

「やっ、やだっ……」

 

薬で麻痺していたはずの恐怖感やら遠のきかけていた意識が、それを見て急激に戻ってくる。

それでも重く動かない身体。

いいように腰を引きつけられ、俺の入り口に奴自身が宛がわれた感触に、音を立てるように肌が粟立つ。

 

「いやだっぁああっ!」

 

そう叫んだと同時に奴が俺の中にプツリと入ってきたのが分かって、更に声をあげる。

 

「うあぁっ!!」

 

更に押し入られて、内蔵を激しく押し広げられる異様な衝撃にただ悲鳴にも似た声を抑えることが出来ない。

フラッシュでも浴びたように目の前が白くなる。自分が涙を流してる事も、叫んでる事も、分からない。

 

「くぅっ…、あぁっ!」

 

気が付けばデュランの動きが止まっていて、自分の身体の上で深く息をしていた。

そのデュランの様子から、自分が奴のものを全部飲み込んだ事を知る。

 

「はっ…ぁ、ぁ…」

 

それでも、内臓の異物感はどうしようもなくて、激しい圧迫感に呼吸が…息が吸えなくて、苦しい。

 

「我慢をするな、声を出せ。窒息するぞ。」

「ぁああっ!」

 

そう言われたのと同時にゆっくりと身体を引かれたかと思うと再び押し入られて、溜まらず声を上げた。

 

「はっ、はぁ…ふぅっ……」

「抱かれるのは久しぶりらしいな。まったく初心者みたいな反応だねぇ」

 

バカヤロッ、それだけじゃねぇっ!てめぇのがウマ並なんだよ!!

俺の反応に嬉しそうなデュラン。

 

「あの時だって…どれだけ私自身でお前を抱きたかったか……」

 

――あの時?

一体どの時だよ!?今更そんな同情を誘うような声なんて出しやがって…俺の感情を逆撫でしたいのかよ!?

以前から誰か適当に男を抱ける奴を連れ込んじゃ、いつだってヤラレル俺を視姦して満足気だったクセに!!

 

…それが何故か、知らない訳じゃない。けど…理解してるって事と感情的に受け入れる事とは別なんだ。

俺には…無理。やっぱり、あんたを受け入れられない。あの時の屈辱が忘れられない。

 

俺が何を思いながら抱かれているのか…知っているのか、どうなのか。

いや、

そんな今の俺の思いなんて、奴には関係などない。

それも分かっている。

 

ただ分かっているのは、俺は性欲の解消の対象だと。

それだけ。

 

その長年にわたり溜まりきった男の欲望を吐き出すかのように。

ただ、

それを堰を切ったように身体に叩きつけられ、もう何も考えられない程の衝撃に襲われる。

 

「くぅっ、あ…あぁっ!」

 

そして徐々に感じ始めていた衝撃の中の快楽は、自覚してしまえばあっと言う間に大きくなり。

俺の感じる場所めがけて集中的に突き上げられ、脊髄を直接的な快感が脳まで一気に押し寄せて…

 

 

――その行為に飲み込まれ没頭するは想像以上に簡単だった………

 

 

to be continue.

 

 

 

(´・ω・`)<後書きだぉ

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